ファイルのバックアップを考える6【外付けIEEE1394,USB2.0 ディスク編2】

['05/03/20] Good Faith twin に関する情報等追記
['04/10/18] アップし忘れてました X-)
['04/08/01] 初稿
■はじめに
■Good Faith Twin で発覚した問題
 こちらのページにまとめたような方法により,2週間程の 間は,『これでようやく安定した快適なバックアップシステムが出来た』と喜んでいました. しかし,某掲示板の書き込みにより,その考えはとても甘いことが認識され,そして抜本的な 対策を図る必要性が出てきました.

 Good Faith Twin で発生した問題点を要約しますと,

  • 内蔵したディスクが動作保証温度を超える温度になる
  • このような状態に於いても,筐体の温度はなま暖かい程度
  • ディスクの放熱に考慮した設計を謳っているが,実際には機能していない可能性が存在

 です.『ディスク温度が異様に高い』という書き込みを見て,『高発熱なディスクを 使用しているのではないか?環境依存だと思う』と,軽く考えていたのですが,実際に 確認してみると,Good Faith Twin をしばらく使用した後に中から取り出したディスクは 火傷しそうな程の熱を持っていました.

 そこで本ページでは,ディスク外付けケースで発生しそうな一般的な問題を実証実験に よって考察すると共に,その対策の検討,そして最終的に私が採用したバックアップ システムに関して解説します.

 なお,予めお断りしておきますと,本ページは Century社を糾弾したり,その製品の悪評 を流布する目的で公開しているものではありません.環境によっては全く問題なく利用でき ている方もおられると思いますので,読んで即,過剰反応されないようにして頂きますよう お願いします.また,このような現象は当該製品のみで発生するとは考えにくく,他社 ファンレス製品においても発生している可能性があります.

■Good Faith Twin
■筐体の中で何が起きているかを検証する
 サポート窓口に相談するにしても,『ディスクを手で触ったら熱かった』では提示する情報と して不足気味であると思われます.本来はこの手の耐久試験的なものはメーカーが製品 出荷前に行うべき物だと考えられますが,それを言っても始まりませんので,手元の環境で 実験を行うことにしました.

 予備実験として行った際の様子を以下に示します.温度は 70度まで計測可能な デジタル温度計を使用して計測しました.誤差は0〜40度の範囲では±1度,それ以外は±2度です. なお,プローブの構造上,センサをディスク筐体に密着させることが困難であったため,下側の ディスク直上の気温(つまり,2台のディスクで挟まれている部分の下側ディスク寄りの部分) を計測する形になっています.この部分は上部ディスクから放射される熱でも炙ら れるため,筐体内度としては最も高くなる場所だと思われます.

通電後しばらくした後の状態.

上側に表示されている温度ががディスク直近の気温で,下側が 温度計本体に内蔵されているセンサで検出した温度.後者は室温+α(筐体で熱せられた 空気で若干温度上昇するため)と考えてください.この時点でそれぞれ34.5度と30.0度

次第にジワジワと温度が上がっていく.気温が低下したのは,冷房をつけたことに より室温が低下したため
1時間程度後にはこのような状態に.下側の温度が充分に低いことからも分かる通り, 筐体は僅かに暖かい程度.

この後電源を落としたのですが,その後もディスク近くの気温は上昇を続けました. ディスク筐体表面の温度は測定できた温度よりも遙かに高いことが想像されます.

 結果を見て唖然.ディスクメーカーのデータシートによると,動作保証されている 環境温度の上限は55度前後です.また,同じく動作保証されている表面温度はこの 環境温度〜+5度くらいですので,上記予備実験の結果はこの温度を超えていることを 示しています.

 そこで本実験として,Good Faith twin を設置し,1) 内蔵ディスク間でファイル コピーを行って負荷をかけた条件 2) より周囲が解放された空間にGood Faith twin を 設置し,無負荷の状態で放置した条件 の2条件で実験を行いました.結果, 負荷をかけない場合であっても,室温 30度の状態で,1時間半ほど経つとディスクの 周囲の気温が60度を超えることが明らかになりました.(詳細な実験結果は省略します)

■構造的な問題点と対策
 構造的な問題点は以下に集約されるでしょう.

  • ファンレス設計であるため,冷却効率の面で不利
  • ディスクが高密度で筐体内に収められており,空気の対流が充分に行われない
  • ディスクのトレイが熱伝導率の低い樹脂製であり,ディスクの熱が筐体に直接 伝達されにくい

 つまり,筐体がアルミ製であり,一見冷却に配慮していると思われますが, 実際にはディスクの熱が殆ど伝導しておらず,結果として放熱板として充分に 機能していない構造になっています.

 このデータを元にサポートに相談をしたのですが,電話窓口では『問題なし.仕様』 ということで取り付く島もありませんでしたが,Web フォームでの問い合わせに対しては 誠実な対応をして頂き,開発部で検証を行うというお返事を頂いております.

 その際のやり取りの中で,フロントパネルを外したり,そこにファンを付けるような 対策案が提案されましたが,制御基盤が邪魔をして充分なエアフローを確保しにくい (空気が通り抜けにくい)構造的になっているため,ファンを設置しても負圧が高く, 充分な効果を発揮するとは考えにくいように考えられました.

■外付けHDDケースが抱える可能性が存在する一般的な問題点
 この事例からも分かるとおり,一般に広く販売されている外付けHDDケースでも,放熱能力 不足という問題を抱えている場合があります.

 冷却に対して最も効果的かつ直接的な解は冷却ファンの導入ですが,最近は『静音』が 1つのキーワードになっており,ファンの搭載が忌諱される傾向にあるようです. ある意味,かけがえの無い資産とも言えるディスク内のデータを危険にさらしてまで 静音を求めるのは如何なものかと思えるのですが,放熱不足による信頼性の低下は 具体的に目に見えるものではありませんし,仮にこれが原因で故障したとしても,それを実証 することは困難です.そのため,信頼性を多少犠牲にしても,より明確に優位性が分かり, かつ,購入者に直接的にアピールできる『静音』というベクトルで有利な製品を 出しているのかもしれません.

 ファンレスの製品を利用している方は,一度ディスクの温度を確認した方が良いかも しれません.特に筐体があまり熱くならない場合は,ディスクの熱が筐体に伝導していない ことを示していますので要注意.

 そういえば, NOVAC のNV-HD360Wでファイル書き込み中に エラーを発することが度々ありました.この原因が熱である可能性がかなり高いかもしれ ません.現在は使用しておりませんので,追試する予定はありませんが…

 ちなみに熱とディスクの寿命は密接な繋がりがあります.『熱くても動いているから良い』 という問題ではなく,結果として引き起こされる現象,即ち信頼性に対してもっと目を向ける べきです.例えば Seagate の資料(['04/10/18]リンク切れ."Estimating Drive Reliability in Desktop Computers and Consumer Electronics Systems"というドキュメントです.日付は 2000年12月.番号は TP-338.1です.問い合わせを行えば,取り寄せ可能かもしれません) によると,MTBF(Mean Time Between Failure:平均故障間隔)は25度で運用して いた場合を 1 とすると,42度で 0.45,54度で0.27,70度で 0.14 です.つまり,一般的な PC に内蔵されたディスクは30〜40度前後の温度であると思われますが,70度にも 達する外付けケースに組み込んで使用した場合,その寿命は通常の利用時と比較して, 1/3 以下にまで低下することになります.

■GoodFaith twin の改造と放熱効率の改善
 実のところ GoodFaith twin は早々に見切りを付け,押し入れに仕舞っていたのですが, 某掲示板で背中を押されたこともあり,ちょっとした改造でこの状態を改善できないかを 検討することにしました.なお,『ちょっとした改造』とは,ケースに対して穴開けを したりせず,『購入時の状態に戻せる』程度の改造です.大がかりな改造を加えて良い ということでしたら,価格.comの掲示板に書かれている ように,筐体に穴を開け,そこにファンを設置するのが確実だと思います.

■[数字遊び]トレーの素材はディスク冷却に利いてくるのか?
 本項では,高校の物理で学ぶ程度の知識と理科年表等から得られる数字から,どの程度,放熱に関して 素材の違いが利いてくるかを検討します.なお,タイトルに入れたように,『数字遊び』のレベル に留まっていますので,厳密な計算を行いたい場合は,専門書に当たって下さい :-)

 なお,私は専門家ではないため,識者から『ここは間違ってるよ』や,『ここはこう計算した方が』 のようなコメントを頂けると大変ありがたいです.その際には,メールでお知らせ下さいませ.

 GoodFaith twin で問題なのは『樹脂製のトレイを使用しており,ディスクの熱が筐体 に伝導していないからではないか』との仮説を立てましたが,これが別の素材,例えばアルミ や銅で出来ていた場合はどのくらい影響があるのかを考えてみます.

 計算を単純にするために,ディスク2台分が側面で何らかの素材で筐体に取り付けられていると いう非常にシンプルなモデルで考えることにします.これをさらに簡素化すると,1つの発熱体が ある素材を介し,ある面積,距離で放熱体に接続していると考えることができます.つまり,この 『発熱体の発熱量』を『ディスク2台分の発熱量』とし,『ある面積』をディスクの側面積の合計, そして距離はスチール製のステーとディスクの距離にし,そこを長方体の何らかの素材で充填した 場合の計算を行うと言うことになります.

 ではまず,簡単な数値から求めていきます.今回使用したディスクは WesternDigital 製の WD2500JB です.これはデータシートから,Seek 時の最大消費電力が12.5[W].そしてサイズはH*L*Wが 26.1*147.0*101.6[mm]であることが分かります.つまり,2台の場合は最大消費電力が25.0[W], そして側面のサイズは1面辺り0.0261*0.147=0.0038367[m^2]となり,両面かつ2台分となると この4倍のため,合計0.0153468[m^2]となることが分かります.

 次に素材の熱伝導率ですが,これは文字通り,熱がどの程度伝達されるかを示す指標 であり,当該の素材が厚さ 1[m],面積 1[m^2]であるときに,両側の温度差が 1[℃]であるとき に1秒で通過する熱量を表します.つまり,この値が大きいほど熱を多く伝達することが可能と 言えます.一方,CPUクーラー等で使用される熱抵抗は逆に,熱の伝わりにくさを表す 指標で,値が小さいほど熱が伝わりやすいことを示します.

 理科年表等を見ると 様々な素材に対する熱伝導率を確認することが出来ます.

表:熱伝導率(単位:[W/m・K])
素材-100℃0℃100℃
空気0.01580.02410.0317
アルミニウム241236240
420403395
(理科年表平成16年版より抜粋)

 と,この表を見ても分かるように,空気は熱を伝えるというよりも,断熱材として作用 することが分かると思います.例えば複層ガラスサッシではこの特性を使用し,ガラスの 間に空気層を入れて断熱を行います(対流による熱移動に関しては後述).

 では,プラスチックを使用した場合はどうなのかに関してですが,簡単に調べたところ, プラスチックの熱伝導率は金属の1/1000と言われており,充填材によって4[W/m・K]まで上げる ことが出来るという記載がありました.また,エポキシ樹脂の場合は 0.96[W/m・K]のものが出来た という記事を見付けることができました.

 何れにしても,空気よりもマシだが,金属よりも 2〜3桁劣ると言えると思います.

 そして後程出てきます『熱伝導シート』の熱伝導率は製品によって異なりますが,カタログを ざっと見た限りでは,1.5〜7[W/m・K].グラファイトシートの場合は600〜800[W/m・K]のようです.


 では次に,単位時間辺りに移動する熱量を計算する公式を見てみますと,
H=kA(T2-T1)/L  --(1)

H:単位時間当たりに移動する熱量
k:熱伝導率
A:接触面積
T1,T2:それぞれの側面の温度
L:距離
 と,なります.これを変形すると,
(T2-T1)=H*L/(kA) --(2)
 と,なり,両端の温度差を上記パラメータから計算することが出来ます.

 では,アルミ,銅,プラスチックの熱伝導率をそれぞれ 238, 397, 0.4 として,(2)式から 両端の温度差を計算してみましょう.なお,距離は1[cm],即ち0.01[m]の厚さを持つ長方体 を使用したとして計算することにします.そして H は2台分のディスクの発熱を全て通過さ せたとして,25[W]として計算します.

アルミの場合:   (T2-T1)=25*0.0153468/(238*0.01)= 0.1612[℃]
銅の場合:     (T2-T1)=25*0.0153468/(397*0.01)= 0.0966[℃]
プラスチックの場合:(T2-T1)=25*0.0153468/(0.4*0.01)=95.9175[℃]
 この数値を見ただけでも唖然とすると思います. 気を取り直して,上記の値から熱抵抗値を計算してみることにします. なお,熱抵抗値は『(T2-T1)/H』で計算できます.
アルミの場合:    0.1612/25 = 0.0064[℃/W]
銅の場合:      0.0966/25 = 0.0039[℃/W]
プラスチックの場合:95.9175/25 = 3.8367[℃/W]
 一方,外気温が35[℃]のときに,ディスク温度を55[℃]に収めるために必要となる 放熱器の熱抵抗は,(55-35)/25 = 0.8[℃/W] となります.この数値以下であれば仕様 を満たすことが出来るわけですが,先程計算した各素材での熱抵抗を見ますと,プラス チックを使用した場合はこれを大幅にオーバーしています.つまり,このプラスチック 素材の先にいくら高性能な(熱抵抗の低い)放熱器を接続したとしても,冷却装置 全体としての熱抵抗は直列回路として 計算しますので,必要なスペックを満たせないということになります.

 では逆に,プラスチック製の素材の先に理想的な放熱器が接続されていた場合, 外気温35[℃]のときにディスク温度を55[℃]に収めるためにはどのようなスペックの ディスクが必要なのでしょうか?計算しますと,3.8367/(55-35) = 0.191835[W]と, なります.これは2台のディスクでの合計値ですので,1台当たり約 0.096[W]と なります.

 Maxtor製の 5400rpm ディスクである 4R120L0 のスタンバイ時 MAX の消費電力が 1.1[W](Seek時は10.2[W])であることを考えると,この数値は現実的でないことが分かる と思います.

 と,ここまで数字遊びをしてきましたが,これら数値はあくまでも簡素化したモデル で計算した,理想的な状態での値です.そもそも実際にはこの他の要因も絡んできます. 数値そのものにはあまり意味はありません.プラスチック製のトレーを用い てディスクの熱をアルミ筐体に伝える設計はナンセンスであり,アルミや銅等の金属を 使用した場合は放熱が可能となる可能性があるということだけ理解して頂けれ ば良いかと思います.

■[トライその1]隙間に銅管を詰める
 と,ここから急に強引な手法に訴えることになります.

 基本的な方針としては, ディスクとスチール製ステーの間に『熱抵抗値の低い物質』で熱伝導のための経路を作るという 方向で作業してみます.[トライその1]では,トレー下の隙間に銅管を差し込み,僅かで も熱伝導経路が出来れば状況が改善する筈…との考えで行いました.

使用したのは経 5[mm](だったかな…),長さ1[m]の銅管です.ホームセンター に行けば容易に入手できると思います.実はアルミ角棒等も同時に購入したのですが, 加工の容易な銅管を使用しました.
パイプカッター.これを使用すると加工が楽なほか,切り屑等も出ませんので お勧めです.
このように隙間に詰めてみました.一応グラグラと浮いている感じではないため, 若干はHDDとステーのどちらにも接触していると思われます.

 結果は全く効果無しでした.原因として考えられるのは,『ディスクおよびステーとの 接触面積が稼げていない』でしょう.

■トライその2[トレーを作成]
 次なるトライは樹脂製のトレーを撤去し,銅管に置き換える方法です.このときに, 熱伝導シールを使用し,少しでも接触面積を稼ぐことを考慮しました.

サンワサプライ製の 熱伝導パッドTK-P15. 両面がシール状になっており,熱伝導率は0.61[W/m・K].2枚入り.サンワダイレクトで320円で 購入
樹脂製トレーを全て外し,トレーとして使用する銅管を4本用意

奥側のディスクの頭が当たる所に樹脂製のクッションがあるので,これも取り外す
接触面積が減少し,効果が低下する可能性が高いが,熱伝導パッドを銅管に巻いてみる
トレーとして装着
銅管が傾かないように両端をアルミテープで固定
基盤をショートしないように注意!!(写真では接触しているようにも見えますが, 隙間が開いています)
先に外したクッションの場所に熱伝導シートを貼り付け,ステーを元の場所に取り付け
ディスクがガタ付かないようにきちんとアルミテープで固定.特に銅管に対して斜めに 接触しないように押し付ける感じで固定.

 写真からも分かるように,このトライからは内蔵するディスクを変更し,WD2500JB-GVから Maxtor 4R120L0 2台に変更しました.なお,別 PC では両者共に殆ど同じ動作温度のため, 厳密には比較できませんが,傾向としては比較できると思います.(SMART読みの温度が どこまで信用できるかは疑問ですが…)

 さて,結果ですが,無負荷のまま8時間放置したところ,下側ディスクの表面近くの温度が 室温28[℃]の状態で 53[℃]で落ち着くようになりました.ケースを開けてステーに触れてみますと,樹脂製トレー のときには熱くなかったのですが,銅管製トレーに交換後は確かに熱くなっており,熱を伝導 していると言えそうです.ただし,ディスクの温度と比較するとかなり温度が低く感じられます. さらに改善する(熱抵抗を下げる)ためにはコの字型のトレーを作成し,接触面積をより増やす 必要性がありそうです.また,ステーは上側ディスク横よりも下側ディスク横の方が温度が低く 感じられました.これは,スチール製ステーが下部でアルミ筐体にネジ止めされておりますので, その影響もあるのではないかと考えられます.

 なお,熱伝導パッドを貼り付けない状態でも計測してみたのですが,結果は 51[℃]に なりました.この結果を鑑みると,トレーとディスクに取り付けたレールとの接触面積は, 非常に大きなファクターとして利いてきそうです.きちんとトレーを作り込んだ場合は, さらに10[℃]以上の温度の低下を達成できるかもしれません.

 これ以上の加工はかなり労力的に負担に感じたため,トレーの作成による冷却効率 の改善は断念しました.とは言え,利用時の温度上昇を考えますと,このままの状態で 本運用に供するのはかなり不安が残ります.残る手段はファンの取り付けですが, 筐体改造無しで取り付けるのはスペース的に困難です.

■[強制空冷]トライその3
 当初,プレッシャーの関係から,フロントパネルを外して風を送り込むのはあまり 効果が無いのではなかろうかと考えていました.しかし,ここに到っては打つ手が無く, ものは試しということでトライしてみました.

「トライ2」で行った改造状態のままでフロントパネルを開け,卓上用の小型扇風機で 強制的に風を送り込んでみます.風量はこの扇風機で『強』.すると見る見るうちに 温度が低下し,下側ディスク直上の温度は 35[℃]にまで低下しました.
そして風量を弱にすると,温度はさらに低下し,33[℃]台に低下しました.

 扇風機稼働時,背面パネルからの排気はそれほど強くありません.ですので, 強力なファンを用いて強制冷却しなければ充分な効果が無いというわけではなさそうです. また,扇風機の風量が少ない方が温度が低くなったことからも分かるように,適度な風量 で筐体内に外気を送り込むのが肝のようです.

 少し驚いたのは,筐体内はIDEケーブルなどで蓋を したような状態になっているため,お世辞にもエアフローが良いとは言えない状況ですが, 外から風を少し送るだけで20[℃]もの温度低下を見たことです.

 ここで空気の対流による熱移動に関して若干解説を行いますと,空気には粘性がある ため,発熱体により暖められた空気は(ある厚さにおいては)発熱体に貼り付いて動き ません.そのため,空気層が薄いと対流が発生せず,熱移動が起きません.このことから, ディスク間のスペースを狭くすると極端に冷却効率が落ちるという現象が発生します. (3[cm]くらいの厚さが最も断熱効果が高いということで,ペアガラスではガラス間の空気層 をこのくらいの厚さにしているようです.国産のものはもっと薄いようですが)

 そこでファンを回して送風することにより,この貼り付いた空気を引っぺがし, 熱移動を促進させます.こうすることにより,自然対流が発生しにくい環境下に於いても 放熱効果を上げることが出来るようになります.

 結論をまとめますと,『見栄えは悪くなるけれど,安心して使いたければフロントを空けて 扇風機を回せ』といった所でしょうか.ディスクを4台内蔵する構造になっている Quat でも この手法は有効だと思います.

# Century には,ファン内蔵タイプやファン取り付けオプションを出して頂きたい所です…

['05/03/20]追記
 GoodFaith Twin および Quat は 2004年の11月辺りからファン付きのタイプが出荷され始めた ようです.早速 Century にコンタクトを取った所,私からの報告がファン付きタイプの開発と 切り替えの引き金になったとのこと.ちなみに twinでは,以下に示す改修が加えられたタイプが 現在出荷されているようです.

背面に4cmファン用の通風口が空いています
2pinタイプの4cmファンが内部にこのように取り付けられています.
ファン用電源は基盤から直接取り出しています.
4cmファンを高回転で回していますので,騒音は想像してください :-). なお,ファンは2pinのコネクタで取り付けられていますので,取り替えは容易でしょう. なお,現在は使用していませんので,どのくらいの冷却効果があるかに関しては検証し ていません.ただし,ディスク温度は低くなったという話はお聞きしています.

 スペースに制約がありますので,改修方法に関してはかなり頭を悩ませたのではないか と思います.その後,設計段階から冷却にきちんと配慮している(と思われる)製品が Center から発売になりましたので,この辺りを気にされる方は, ドライブドアを 選択した方が良いかもしれません.ただし,従来のtwin/quatはIEEE1394aも使用できましたが, ドライブドアは USB 2.0 のみに対応していることに気を付けて下さい.なお,標準搭載の ファンはかなりの騒音なようですので,静音性を望であれば,より静かなファンへの換装を 検討した方が良いと思います.

# うーん.それにしても何て話題性のあるタイムリーなネーミングなんだろう…

■玄人志向 X4HD-1394の導入
■玄人志向 X4HD-1394
 Century GoodFaith Twin であれこれ試行錯誤していたわけですが,最終的な目標としては 250GB のディスクを3台(以上)IEEE1394 接続する必要があるため,玄人志向 X4HD-1394 を導入することにしました.これに伴い,現在は GoodFaith twin は再び押し入れ行きに なっています.

 ここでは,X4HD-1394とディスクを取り付けるために使用した MicroATX ケース,そして ディスクをマウントする際に使用したマウンタ,X4HD-1394に関して簡単に解説します.

AOpen H450A (Micro ATX case)
Aopen 製の MicroATX ケース H450.大きさと ベイ数,価格のみで選択しました.ベイ数は5inch *2, 3.5inch *2とシャドウベイ*1
ケース外観
フロントパネル
スイッチは電源とリセット

片側のネジは外したときに脱落しないようになっています.こういったちょっとした 心遣いが良い感じ
ドライブ類はここに取り付け.ある意味,この部分と電源のみ利用するため, 勿体ないスペースが多い感じ
電源の仕様.250WでPentium4 の12V,AthlonXP に対応を謳っています

SF-7500 ヒートターミネータ
押入の奥に仕舞われていた HDD マウントキット (SF-7500 ヒートターミネータ). 99年9月購入.当時 4780円でした.
5inchベイ*2 のサイズで3.5inch HDDを3台マウントできます.最新の型はフィルタも付いているようです.
吸気部はこんな感じ
6cmファンが内蔵されています.
元から付いているファンは結構うるさいので,交換した方が良いでしょう.なお,2台マウント するだけであれば,ファンを回さなくても大丈夫だと思います.
ディスクはこのように取り付けます
3台マウントする場合はこのように詰めてマウントするため,殆ど隙間が空きません. ファンは必須です.ちなみに左の写真は下部に2台取り付けた状態であり,3台マウントする場合は この上にもう1台取り付ける形になります
2台のみマウントする場合はこのように隙間を空けてマウントできます
ケースにマウントした状態

玄人志向 X4HD-1394
今回のメインディッシュ.玄人志向 X4HD-1394
IDEデバイス 4台を接続することが可能で,PC 本体とは IEEE1394 で接続し,スパンモード (2台のHDDを1台のHDDとして見せる),4台を別々に認識させることが出来ます.
仕様等
基盤のアップ.ボード上はかなりシンプルな構成になっています.黒いコネクタが IDE コネクタで,それぞれ2台のHDDを接続できます.

マニュアルは同梱されていませんので,ジャンパ設定等は こちら のページから落とせるマニュアルを参照する必要があります.

制御回路のアップ.
変換チップは EPSON S1R72805 を2組搭載.
IEEE1394/USB1.1 <-> IDE の変換を行えるEPSON S1R72805.データシートは こちら から.LBA48に対応しているため,137GB以上のディスクも扱えます.

なお,変換チップで 高いパフォーマンスを示すことで有名な OXFW911 チップは, こちらのページに書かれている ように,MAXTOR の bigdrive に対応するように拡張がされていますが,LBA48 に完全互換な わけではありません.そのため,MAXTOR製以外の 137GB over のディスクの場合は動作しません.

メーカーはこの問題に対応するために,周辺回路の変更とファームウエアのアップデートを 行っていますが,これまでに販売されている全ての製品で対応できるわけではないようです.

IEEE1394 PHY
基盤の内側(?)に向く所には,ATX電源用端子,本ボード用の電源端子(FDDに使用する 4pinタイプ),IEEE1394 6pin端子が並びます
各配線をし,ジャンパ設定後,3.5inch ベイにこのように取り付けました.

ベイのパネルを開け,IEEE1394ケーブルはケース正面からプラグするようにしました.なお, 電源スイッチは MicroATX ケースの電源ボタンに繋げ,ボタン連動でATX電源に火が入る ようにしました.

このような設定の他,ジャンパの設定によって常時電源ON等も選べます.ボード上のSW連動も可.

設置後の状態.

Terminator と比べると,MicroATXケースが巨大に感じます.事実,奥行きが あり過ぎ,並べると飛び出してしまうのが難点か

 玄人志向の『キワモノ』に分類される製品ですが,組み上げ後,ごく普通に動作しました. Western Digital の WD2500JB-GV を2台,MAXTOR の 5A250J0 を1台,ついでに SOTO-3.5iUB に入れて使用していた 4A250J0 を入れたのですが,相性問題など無く,それぞれのディスク 領域がフルに認識されました.

■玄人志向 X4HD-1394を使う
■パフォーマンスを見る
 IEEE1394デバイスのLinux での利用方法に 関しては,こちらを参照して下さい.

 インターフェイスカードとして GIU2-PCI を使用し,玄人志向 X4HD-1394 を IEEE1394a で接続した際のパフォーマンスを hdparm で測定したところ, Good Faith Twin と全く変りませんでした.接続ディスクは4A250J0, 5A250J0, WD2500JB-GV の3種類を試してみたのですが,何れも 20[MB/sec]くらいでした. この値は,ベンチ時にアクセスした領域がディスクの内周なのか/外周なのかに よって大きく異なるわけですが,まぁどちらの変換基盤も同程度の性能が出ていると見て問題は 無いと思います.

 CPU 使用率に関してもほぼ同等でした.逆に言うと,私のこの環境においては, IEEE1394a で接続したディスクのパフォーマンスが,せいぜい 20[MB/sec]程度 しか出ず,他のより高速な環境において言われている,30[MB/sec] over には 達しないとも言えるかもしれません.

 何はともあれ,この環境におけるベストなパフォーマンスを出しているようなので, 性能的には問題ないと言えそうです.

■使い勝手に関して
 やはりケースが大きかったり,正面からIEEE1394ケーブルを引き出すようにした 等の理由により,Good Faith Twin と比べると収まりも見栄えもとても悪くなりました. こういった点では,Good Faith は Good Face でした. しかし,これは実用上大した問題ではありませんので目を瞑ることにします.

 次に Linux からの認識ですが,4台ものディスクを積んだわけですが,認識させる際には add-single-device で SCSI ID を 0〜3 として行えばOKでした.

 しかし認識に関しては若干問題があり,X4HD-1394 プライマリ/セカンダリIDEの 認識順が逆転する場合もあるため,少々難渋します.より具体的に書くと, 4台のディスクは sda〜sdd として認識されるわけですが,sda として使用していた ディスクが次回接続時には sdc として(そのときには sdb が sddに.マスタ とスレーブが入れ替わることはない)認識される場合があるということです.

 これはこれで面倒なことではありますが,とりあえず運用でカバーすることにしました.

 しかし,一点,無視できない程大きな問題が発生しました.

 最初に X4HD-1394 を接続する際には問題ないのですが,一度抜いてから再び接続すると, r8169のドライバ(GBit Ether)がパニックを起こし,しばらくすると Linux 自体が ハングしてしまいます.Ethernet driver に問題があると考え,別のドライバに置き換え たり,オンボードの NIC に変更したりしても状況は変りません.r8169 のドライバを 利用していない場合は sbp2 がパニックで死にます.

 Good Faith Twin のときにはこのような状況は無かったのに…と,考え直してみると, 思い当たることがありました.Good Faith Twin では電源 ボタンを押して電源を落とした場合でも,ディスクの電源供給こそ停止しますが, インターフェイスボード自身はアクティブになったまま.つまり,Linux 側からは依然 デバイスが接続されたままの状態として認識されており,ケーブルを抜線したのと同じ ようには認識されていませんでした.

 一方 X4HD-1394 は,電源ボタンを押すとコントローラ自体が停止し,Linux側からは ケーブルを抜線したのと同じように認識されています.

 これらのことを考えると,私の環境(Kernel 2.4.26+GIU2-PCI)では,IEEE1394 デバイスを一度切断し,再びプラグするとクラッシュするという結論が導き出せそうです.

 これは非常に大きな問題です.バックアップ後に X4HD-1394 およびその先のディスク の電源を落とした場合,次回バックアップの際には,本体を再起動する 必要があるということになります. うーん,困った.

 Windows ユーザであればまず問題ないと思いますが,Linux ベースですとこういう 問題もあるということで.おそらく SBP2 Driver 等の完成度が高まればこの問題は解決する だろうと思います.はたまた,現在でも Kernel 2.6.x であれば問題が出ないのかも.

■まとめ
 あちらを立てればこちらが立たず.端から見たら『ハマリ道』的な笑い話 ですが,当事者である私としては非常に深刻な問題です.

 とりあえず現在は,『バックアップを行うときには一度再起動してから行う』 という本末転倒な運用方法で逃げています.ホント,困りました.

 さて,今回あれこれ行った結果としての教訓として,以下のようなものを 得ました.知識やノウハウが溜まったというメリットもありましたが,嬉しいような悲しいような…

  • 外付けディスクを購入する際には,冷却に関してきちんと対策がなされているものを 購入すべき.特にファンレスのタイプは危険度が高い.
  • Linux で IEEE1394 のストレージデバイスを使用する場合は問題を抱える場合がある
  • Linux で抜き差しを頻繁に行うデバイスを使用する場合は USB の方が安心

 また,今後の私のバックアップシステムの方向性としては,以下のようなことを検討しています.

  • USB 接続のものに置き換える(しかし,4台同時に別個のディスクとして 使えるものは Good Faith Quat のみ….はたまた,外付けケースを複数台繋げる?)
  • Good Faith Twin 2台体制にし,それぞれを改造してHDDの冷却を万全にしてからIEEE1394で使う
  • ちょこちょこ落としても問題ない別マシンに X4HD-1394 を繋ぎ,ネットワーク 経由でバックアップを行う
 うーん.悩ましい所です.年末くらいを目処に,抜本的な対策を採ることを考えています…

['05/03/20]追記
 2004年の年末にサンタが来る前にサタンが来たようです X-<

 内蔵ディスクとして使用していた,公称値でMTBFが100万時間である5A250が1年持たずに昇天 しました.幸いにしてクラッシュの2週間程前に取っていたバックアップがあったため事なきを 得ましたが,本格的な対策を採る必要性に駆られ,SoftwareDesign 2005年3月号で簡単に触れさせ て頂いた方法にシフトしました.詳しくは近日アップする予定のページにまとめることにします.

 それにしても…壊れた5A250を本体から抜き,WD2500JBに交換したら,それまで1〜2ヶ月に 1回程度出ていた,原因不明でハングする症状がピタリと治まりました.こんな所に原因があった なんて…


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