冷却対策【目張りによるエアフローの改善】

['04/03/06] 内容修正(TUにおいて,CPU温度とM/B温度が入れ替わっていた)
['03/06/28] 初稿
■夏を迎えるにあたって
■なぜ PC の冷却を考えるか
 冬場は全く問題なく利用できていた PC であっても,夏が近付くにつれて 気温が上昇し,CPU や M/B温度も上昇します.その結果,動作が不安定になる 場合があります.一般に『熱暴走』と呼ばれる現象で,このような状態になる のは,そもそも利用環境に対して冷却不足であると言えます.

 Treminator を利用している場合,ファンの回転数や風量を抑えるといった 静音化対策を行っている人が多いと思いますので,静音対策後,夏場を超え たことがない構成の場合は見直しを行った方が良いと思います.

 では,夏の暑い盛りでも問題なく稼働していれば良いのかというと,そうで はありません.熱は湿度と共に,半導体やその他のパーツの寿命を縮める要因 になります.例えば半導体であれば,定格の環境下において30年〜50年は問題 ないと言われていますが,温度の上昇により,寿命が縮まることは広く知られ ています.そのため,半導体メーカーは加速試験などを行い,信頼性の検証を 行うのが一般的です.

○参考リンク

 とは言え,通常の冷却対策を施した PC で,定格を大きく上回る温度に半導体 を晒すことはほぼ無いと思います(『CPUを焼いてしまった』のような話は除く). では,どの部分の温度を気にしなければならないかと言うと,それは電源ユニット です.電源ユニットの中には,とても故障しやすい『電解コンデンサ』が 多数使用されており,経験的にも比較的故障しやすいパーツと言えます.
■電源冷却の必要性
 本サイトのメインコンテンツの1つであるBKi810 というベアボーンキットは,かなり多く出回ったこともあり,現在も多くの マシンが現役で使われているようです.しかし,このマシンは電源部分が 非常に弱く,電源ユニット故障の話題が絶えません.故障原因の大半は, 電源ユニットに使用されている電解コンデンサの破損です.元々使用されている 部品の品質の問題や設計の問題,冷却不足等等,複合的な要因が絡んでいるの ですが,故障した電源は大抵電解コンデンサが膨張していたり,液漏れを起こして います.

 これはファンレス電源を使用している Terminator においても他人事では ありません.電解コンデンサは,PC に使用されている半導体以外のパーツの 中で,最も壊れやすいパーツであると言われています.特に利用環境の温度に よってその寿命は左右されます.一般に10度2倍の法則と言われますが,10度 温度が上がると寿命が半分になると言われています.(当然ながら個体差もあり, 寿命の長短は一概には言えません.あくまでも全体的な傾向の話です)

 つまり,Terminator は, M/B 温度として電源ユニットの温度を報告 しますが,常時 70度が報告されるマシンの場合,電源ユニットは 50度の マシンの 1/4 (20度差なので,1/(2*2))の寿命になる可能性があるという ことです.

■電源ユニットの冷却
■冷却方法
 Terminator は,ケース背面に取り付けられた1つのケースファンを回転 させることにより,冷却を行います.ケース内部の暖まった空気を排気し, 負圧により前面からフレッシュエアーを吸気するという方式です.

 つまり,電源ユニットには冷却用のファンが取り付けられていないこと から,当該部を重点的に冷却したい場合,以下のいずれかの方法で行う必要 があります.

  • ケース内の気温を下げる
  • 効率的に電源ユニットをフレッシュエアが通過するようにする

 そしてこれらを実現するための方法として,以下のような方法が考えられます.

    A)ケースファンの風量を増し,電源ユニットを通過する風量を増加させる
    B)電源ユニットに手を加え,放熱しやすくする
    C)ケース内の気温を下げる対策をとる
    D)エアフローを改善し,電源ユニットを通過する空気の流量を増す

 Aの方法は,ファンの回転数を上げたり,より強力なファンへの交換, ケースファンの増設等が含まれます.基本的にファンの風量は,ファン が発生する騒音とほぼ比例します.私の場合は静音化を目指していることもあり, あまり採りたくない方法です.しかし,その効果は絶大でしょう. (ちなみに余談ですが,30[dB]のファンを2個付けた場合の騒音は60[dB] にはなりません.最近,[dB]という単位は何を意味し ているのかを理解しないまま,議論されることが多い風潮が気になっています…

 Bの方法は,電源ユニットに穴を空けてエアフローを改善したり,ヒート シンクやファンの取り付けを行い,ケース内に放熱する効率を高めようとい う内容です.チップ用のヒートシンクを並べて貼り付ける程度であれば良い のですが,改造を伴う場合はやや腰が引けてしまいます.電源ユニットは とてもデリケートな部分(事故が起きると発火,発煙の危険性が高い) ですので….ケース内温度が電源ユニットと比較して充分に低い場合は, かなりの効果があると思います.

 Cの方法は,Aのような改造を伴わない方法です.詳しくはモバイルラック のパートで解説 しますが,ケースファンの排気/排熱能力が低い場合,ケース内のエアフローが 悪くなるため,これを改善します.改善することによりケース内温度を下げ, その結果電源ユニットの温度も下がるようにするということです.

 今回メインで採り上げる方法は Dです.Terminator はケース前面 下部および隙間からフレッシュエアーを吸気し,シャーシ前面のに開いている 多くの開口部からケース内に空気を取り込みます.電源ユニットを冷却する ためのエアーも同様の方法で取り込まれます.しかし,電源ユニット以外に も多くの開口部があるため,より吸気プレッシャーの低い開口部から, 多くの空気がケース内に流れ込んでいるようです.
 これをある程度制御し,電源ユニットを通過する空気の流量を増やそうと いうのがこの方法の趣旨です.

 この他にも最近行われている方法として,ダクトを作成するという ものがあります.重点的に冷却したい部分からケースファンに向けてダクトを 取り付けることにより,当該部分の空気の流量を増やすという方法です. 労力はそれなりにかかりますが,かなり効果があるようです.

■シャーシ前面開口部の目張り
 何らかのテープを使用して,電源ユニット以外の穴を塞ぐ作業を 行います.ただし,ディスク前面も塞いでしまうとディスクの 冷却に問題を抱える場合がありますので,その点も考慮して塞ぐようにします.

アルミテープ
ホームセンター等で売られています.近くの百貨店の DIY コーナーで 777 円で購入.
10mもあるので,このためだけに買うのは少し勿体ないかもしれません. 台所周りにも使えるので,あればあったで重宝すると思いますが…
なお,テープはとても柔らかく,加工が楽です.また,糊もベタベタ系で なく,貼った後で剥がれて来やすいということもないので,扱いやすいで しょう.そういった意味では,ビニールテープやガムテープで行うよりも 見栄えも含めてお勧めです.
Linux を入れ,現在24h稼働中の Terminator TU 1号機のフレーム前面.
フロントのUSBパネルは撤去して あるほか,上側の 5インチベイには,リムーバブルラックを入れてあります (詳しくは後述)
アルミテープ貼り付け後の状態.

電源ユニット,ディスク,5インチベイ以外は極力塞ぐようにしました.ただし, ディスク周り(3.5インチシャドウベイ,スマートドライブを入れた5インチベイ)を 完全に塞ぐのは怖いので,空けてあります.

最近,Windowsのメインマシンとして利用している K7DDR のフレーム前面.
ディスクは 3.5インチシャドウベイに取り付けてあり,5インチベイは1台分 空いています.
アルミテープ貼り付け後の状態.空いている 5インチベイ前面は塞ぎました.
■効果の検証
 目張りによる温度低下の確認方法ですが,Terminator TU 1号機は Linux を インストールして使用していることもあり,lm_sensors の値で確認しました. そして K7DDR は Windows ベースで動作していることもあり,Asus PC Probe で 確認しました.そして K7DDR の方は,負荷を高めた状態を観察するために, 午後のコーダで10分間耐久テストを行った状態での温度を調べました

 なお,Linux での CPU,M/B温度関しに関しては, このページこのページを参照してください. そして Asus PC Probe は K7DDR で利用した場合,CPU の温度に関しては当てにならないという話は こちらのページで書きましたが,今回は CPU 温度はあまり厳密に見ないことにしましたので,良しとします (MBMを使用すれば厳密に確認できるが,チェック中は常時ケースファンの 回転数が最大になってしまうという問題がある).

 なお,確認は,室温25.9度の室内で行いました.

目張り前後における Terminator TU 1号機の温度
(定常状態)
CPU温度[℃]M/B(電源)温度[℃]
目張り前5545
目張り後5640

目張り前後における Terminator K7DDR の温度
(負荷をかけた状態)
CPU温度[℃]M/B(電源)温度[℃]
目張り前5064
目張り後5055

 結果を見るとお分かりのように,TU では M/B 温度の低下が5度ほど認められ ますが,CPU 温度は逆に1度上昇しています.M/B温度に関しては予想通りの結果 ですが,CPU温度は(誤差の範囲内かもしれませんが)気になるところです.
 仮説としては,これまでは CPU 冷却のためにサーマルコンポーネント に流れる空気が USBパネル開口部経由(USBパネルを除去しているため,外部の フレッシュエアーがここ経由でケース内に流入できるようになっている)であった のに対し,目張りによって電源経由に変更になったためだと考えられます.つまり, 電源で暖められた空気を使用して冷却されることになり,その結果CPU温度が上昇 しているのではなかろうかということです.別の言い方をすると, ケース内温度が上昇するため,CPU温度が比例して上昇したということです. また,その他の要因として,吸気プレッシャーが上昇したため,サーマル コンポーネントを通過する風量が低下した可能性も予想されます.

 次に K7DDR に関してですが,こちらも充分に効果がありました. 電源ユニットを通過する空気の流量が著しく増加したようで,実に10度 近くもの温度低下が見られました.K7DDRでは CPU温度の上昇が全く認めら れませんが,これは CPUファンの存在が大きいためとも考えられます.

 夏真っ盛りの時期を迎えると,現在よりも室温が 5度以上上昇することが 予想されます.目張り前の構成ですと,64度+5度で 69度以上になる 計算になります.実際には室温はそれよりも上がることが考えられますの で,正直言って K7DDR に関しては深刻な状態だと言えましたが, 目張りを行うことによりその心配は無くなりました.

■モバイルラックについて
 Terminator TU に静音タイプのファンを搭載すると排気量が減少し, ケース内の暖まった空気を完全に排出できないときがあるよう です.ケースファンの位置がケース後ろ上部ではなく, CPU の後ろに あることもあり,排気できない熱はケース上部(5インチベイの後ろ)に 溜まりがちなようです.

 この問題を解決する方法としては,シャーシに穴を開けて上部に ファンを増設することも考えられますが,かなり大がかりな作業に なります.

 以前,ディスクを内蔵させた状態でモバイルラックを取り付けていた 時期がありました.その後このディスクが不要になったため,モバイルラック ごと外したところ,CPU温度が5度近くも一気に上昇しました.

 このことから,仮に中身が空でであってもモバイルラックを取り付けておき, そこから吸気可能にした場合,ケース内の温度を下げることが出来るらしい ことを経験的に知りました.そして再び中身を空の状態でモバイルラックを 取り付けるようにし,現在に至っています.

 しかし,目張りを施したところ,これが仇になってしまった可能性が あります.今後の温度変化の様子を見ながら,取り外すかそのままに するかを検討したいと考えています.

■まとめ
 電源ユニットの温度が非常に気になっていた K7DDR に関し,非常に 満足の行く結果が出ました.一時は夏場の使用は厳しいと考えていたの ですが,これで安心して使うことができます.

 また,TUにおいても,K7DDRほど大きな効果はありませんでしたが, 電源冷却に関しては充分な効果が認められました.その一方,CPU温度は 目張り前から上昇する気配があります.

 なお,目張りを行うときには,電源ユニット以外の部分 (特に5インチベイの部分)から吸気しない状態にするのが効果的なよう ですが,ディスクを取り付けている場合は,ディスクの冷却にも充分考慮する 必要があるでしょう.具体的には,シャドウベイまで目張りしてしまった場合, シャドウベイに取り付けられたディスクが充分に冷却されなくなり,寿命を 縮める可能性があります.

 目張りによるエアフローの改善は,数百円分のコストと10分程度の 作業により,絶大な効果をもたらす可能性があります.本題の,電源ユニット 故障の可能性をどの程度まで下げているのかに関しては,数値として測定する ことはできません.しかし,上記の『10度2倍の法則』も併せて検討すると, 確実に寿命を延ばすことが出来ていると言えそうです.


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