静音化とファンレスの検討2 (CPU FAN編)

■CPU クーラーの低騒音化
■CPU クーラーについて
 こちらのページにまとめたように, ケースFANを静音化した次は CPU FAN を静音化することを考えてみます.

 リテール版 Intel 製 CPU を購入した際に同梱されている CPU FAN は静かな部類に入りますが,それでもかなりの騒音を発します.そこで, CPU 温度によってファンの回転数をコントロールして低騒音化を計れる CPU FAN,そして騒音源を根本から無くすために,CPU ファンレスを目 指すためにヒートシンク2種類を試してみました.

画像 型番 説明

ElanVital FSCUG9C-6FC 温度センサーにより,回転数を自動でコントロールするタイプの 静音 CPU ヒートシンクFAN.CPUコアとの接触面は銅製.価格は 3千円台とわりと標準的な価格です.

Swiftech MCX-370
(Owltech扱い)
ヒートシンクのみのタイプと,ファン付きで売られているタイプ の2種類があります.ヒートシンクのみで5千円 over とかなり 高価なものです.

円柱状のアルミ製ピンを立てた形状のヒートシンクになっており, それぞれのピンにネジ状の切れ込みを入れ,『Helicoid構造』に したことにより,表面積が通常の2倍になっています.メーカーの 話では,通風の面でメリットがあるという話です

基本的には,ファンを取り付けてアクティブ冷却での利用を想定 されています.

パッケージには,取り付け用のネジ,CPUとの間に付けてコア欠け を防ぐためのクッション材が同梱されています.


サーマルコンポーネント 85EX60X80 ファンレスの定番,サーマルコンポーネント製のヒートシンクです.

店頭では殆ど見かけることはありませんが,メーカー直販やオンライン 通販なので購入することが可能です.基本的に定価販売となっている ようで,このタイプは5千円でした.

とにかく巨大で,ファンを取り付けて冷却するということではなく,別のファン で発生した,ないしは自然対流の空気の流れを利用して冷却する ことを想定されています.

パッケージの中には,CPUとヒートシンクとの間に挟み,バッファとして使用 するための銅板,シリコングリス,固定用金具2種類が入っています. Terminator に取り付ける際には,大きな方の金具を使用し,かちっと テンションをかけて固定した方が良いでしょう.

■CPU FAN/ヒートシンクの取り付け
 CPU ソケットの爪に,きちんと取り付け金具をはめ込めば完了です. FAN 付きの場合は,M/B の CPU FAN 用の電源端子に電源コネク タをはめ込みます.

 また,シリコングリスの塗り方には注意が必要です.基本的に薄く 伸ばして塗れば良いのですが,ムラがあったり,厚く盛りすぎてしまうと 逆効果です.金属粉等を混ぜた熱抵抗の低いシリコングリスが売ら れていますが,これを使用するときには特に厚く盛りすぎていないか 確認しましょう.

ElanVital FSCUG9C-6FC を取り付け.比較的すっきりと取り付けることが可能.さらに大型の CPU FAN も十分乗るスペースが確保されている

FANの電源の接続し忘れをしないように注意

Swiftech MCX-370 を取り付け.

取り付けようのネジをきつく閉め過ぎ,テンションをかけ過ぎないように注意.

このように,ヒートシンクのすぐ後ろにケースFANが配置されているため, エアフローは理想的に思える.

Swiftech MCX-370 と サーマルコンポーネント 85EX60X80 の大きさの 比較.このように 85EX60X80 は巨大.
85EX60X80 の取り付け.

まるで計ったかのようにピタリとはまり,かつ,ケースFANの位置もバッチリ.

取り付けの際には,熱のバッファとして機能する銅板を挟むのを忘れないこと. なお,銅板にシリコングリスを塗るのも忘れずに.

電源付近のアップ.このようにあまり隙間が 出来ないが,十分収まっているのが分かる.なお,ケーブルの取り回しには コツがあり,組み立て時にヒートシンクの上側を回すのが良い.

■検証
■騒音について
 ファンレスのヒートシンクが無音なのは当然として, ElanVital FSCUG9C-6FC の動作音も殆ど無音に感じます.また, 回転音は耳障りな高周波ではなく,比較的低い周波数帯の音で す.さすが『静香ちゃん』と,いう呼称が付いているだけあります.まず 気にならない騒音レベルであると言えるでしょう.

■冷却効率について
 それでは,上記3タイプでの冷却効率を検証してみましょう.

 負荷をかける方法としては前回と同様,30分間 DVD を再生する 方法を試しました.

 なお,OSは Windows2000を使用し, CPUとして は手持ちの Socket370用CPU の中から Pentium3 650MHz を使用.ケース FANは Justy DSF-92L を使用し,電源から直接供給を行って 計測を行っています.

室温20度での冷却効率の検証
使用した CPU FAN /ヒートシンク CPU 温度 M/B 温度
ElanVital FSCUG9C-6FC 32度 45度
Swiftech MCX-370 45度 44度
サーマルコンポーネント 85EX60X80 35度 45度

 このように,静音タイプの CPU クーラーである FSCUG9C-6FC でも, 十分に低い温度に冷却されていることが分かります.また,FAN レスである MCX-370,85EX60x80 共に CPU 温度が 50 度を超えておらず,20度 という室温下では,常用可能なレンジに収まっているように思えます.

 もう少し細かく見てみますと,ファンレスの 85EX60x80 は,ファン付きの FSCUG9C-6FCに肉薄する程の冷却効率を示すという驚く結果が見て 取れます.また,MCX-370 は若干 M/B 温度が低くなっていますが,こ れは ケースFAN の吸気に対し,あまり大きな抵抗となっていないために, 若干低くなるのではないかと思われます(測定誤差の範囲に近いですが).

 ただし,空冷の場合は『室温+何度』に冷却できるかという性能で 考えなくてはなりませんので, MCX-370 の場合,室温が20度で CPU 温度が 45 度だとすると,夏場に室温が35度になった場合は 60度にも 上昇してしまいます.

 ヒートシンクの形状を見て分かるとおり, MCX-370 はあくまでも FAN を取り付け,アクティブに冷却を行うためのパーツとして見た方が良さそうです.

 空気にも粘度が存在するため,85EX60X80のように,ヒートシンク がある程度空間的に余裕がなければ,パッシブ冷却は難しいと一般に 言われています(ヒートシンクの各フィンに,ネバッと熱せられた空気が 貼り付いて剥がれにくい).CPUクーラーの FAN を取り外して使用す ることを考える場合,この辺りも考慮して使用する方が良いでしょう.

■CPUを変更してチェック
 別の CPU を使用して,同じように冷却効率を確認してみることにします.

 今回は少し趣向を変え,前回の結果および上記の結果を踏まえた上での 最終構成である,『Enermax UC-9FAB(最小回転数) +85EX60X80』と いう構成で実験してみます.また,CPU 負荷が 100% を連続でかけた場合の 高負荷時の状況も確認するために,Superπを連続して動作させる実験 も行いました.

室温20度での冷却効率の検証
CPU DVD再生 Superπ
CPU 温度 M/B 温度 CPU 温度 M/B 温度
Pentium3 750MHz
(TDP 19.5W)
42度 49度 44度 49度
Pentium3 1.1GHz
(TDP 33.0W)
56度 58度 61度 58度
Pentium3-S 1.26GHz
(TDP 29.5W)
45度 52度 47度 48度

 この表からも分かるように,Pentium3 1.1GHz(Coppermineコア)の 発熱は凄まじく,高負荷時には60度を超えています.一方,TDPでは 0.5W 程の発熱量の差しかない Pentium3-S 1.26GHz の方は,高 負荷時にも52度です.

 あれこれ試してみたのですが,どうも Coppermine コアの CPU は, 無負荷時での温度は低いけれども,高負荷時の温度上昇が激しいよう です.

 一方 Tualatin コアの CPU は,無負荷時での温度がそこそこ高 い(上記環境で CPU/MB がそれぞれ 44度/47度)けれども, 高負荷時にそれほど温度上昇はしないようです.もっとも,上記の 結果のように, TDP 値と比較して実際の温度が極端に違うという 結果の理由付けにはなりませんが…

 また,各 CPU には,Thermal Spec という値が 定められており,『これより温度が上がらないようにしてください』と,いう 温度が規定されています.上記の CPU のそれぞれの値を列挙すると, Pentium3 750MHz/1.1GHz/S 1.26GHz はそれぞれ 80度/77度/69度 となって います.無論,この温度を超えたらすぐに壊れるというわけではありませ んが,この温度以下に冷却しておいた方が寿命が延びます. そこでこの仕様までのマージンと高負荷時の温度の差を見てみますと, それぞれ 36度/16度/22度 となり,必ずしも Pentium3 1.1GHz で 極端に余裕が無いわけではないことが分かります.しかし,今度は M/B 温度の方が問題となって来ますので,この構成での Pentium3 1.1GHz の定格使用は,少々精神安定上よろしくないような気がします.

 その他,DVD 再生時と Superπ 実行時の M/B 温度に着目 すると,やはりデバイス系を酷使するとそれなりに温度が上昇する ことが分かります.CD-R/DVD-R を使用する場合や,ディスクを沢山 接続した場合には注意が必要かもしれません.

■おまけ
 その他の構成でも色々と実験を行っていますので,おまけとして 書いておくことにします.あまり役に立たないデータかもしれませんが…. なお,CPUクーラーは全て 85EX60X80 で測定しています.

室温20度での冷却効率の検証
CPU DVD再生 Superπ 備考
CPU 温度 M/B 温度 CPU 温度 M/B 温度
Celeron 533A MHz 35度 48度 - - Enermax UC-9FAB
(回転数最小)

無負荷時に CPU/MB が 18度/41度(室温17度くらい)

Celeron 533A MHz 31度 40度 - - Enermax UC-9FAB
(回転数最大)
Pentium3 750MHz 42度 49度 44度 49度 Enermax UC-9FAB
(回転数最小)

無負荷時 CPU/MB 21度/42度(室温18度くらい)

Pentium3 1.1GHz 44度 42度 50度 43度 Enermax UC-9FAB
(回転数最大)
Pentium3 1.1GHz 48度 47度 55度 48度 ADDA CF-90S
(M/Bから電源供給)

無負荷で CPU/MB が 26度/41度

Pentium3-S 1.26GHz 41度 43度 42度 44度 Enermax UC-9FAB
(回転数最大)
Pentium3-S 1.26GHz 45度 49度 49度 50度 ADDA CF-90S
(M/Bから電源供給)

 当然のことではありますが,Celeron 533A 非常に発熱が 少ないです.これであれば,多少室温が高くなったとしても, Enermax のケース FAN 回転数を上げなくても凌げそうです.

 また,Enermax のファン回転数を最大にすると,発熱の激しい CPU を使用したとしても,全く問題なく冷却できることが分かります. 問題は,このような設定をすると,爆音を鳴り響かせてしまうことです. 定常運用には向きません.

■まとめ
■冷却に関する注意点
 残念ながら,おそらく Terminator を新規に購入した場合に最も 利用する可能性が高いと思われる,Tualatin コアの Celeron は試せ ませんでした(一応 1.2A を購入してはいたのですが,BKi810 に改造し て乗せようとあれこれしていた際に,事故で焼いてしまいました…).

 しかし,Tualatin コア Celeron を使用している同僚の話を聞くと,ほぼ Pentium3-S と同じような性格(無負荷時の温度は比較的高いが, 高負荷時にそれほど温度上昇しない)なようなので,まず問題ないと思 います.

 しかし,Coppermine コアの高クロック版 CPU を使用する場合, そのCPU 温度の上昇が激しい傾向にあるようなので,注意が必要 そうです.

 その他,冷却に関する注意点としては,MB の温度(おそらく電源付近 の温度を監視していると思われます)はかなり上昇する傾向にあるようで すので,ケース内温度が危険な温度にまで上昇しないように気を付ける 必要がありそうです.特に,CD-R や DVD-R ドライブのような高発熱を 伴うデバイスを使用する場合や,複数台のディスクの内蔵,ビデオカードの 増設を行う場合には注意した方が良いでしょう.

■まとめ
 静音対策を行い,かつ,パフォーマンスを求めることが必ずしも 不可能でないということが分かりました

 最終的に私が採用した構成は,『Pentium3-S 1.26GHz + Enermax UC-9FAB(最小回転数)+サーマルコンポーネント 85EX60X80』です.この状態で2ヶ月ほど24時間運用をしてい ますが,今のところ全く問題は発生していません.これから夏場を迎えるに 辺り,不安が全く無いと言ったら嘘になりますが,おそらくこの構成のままで 乗り切れるのではないかと考えています.

■夏場の温度について
['03/02/13]追記

 MRTGを使用して半年ほど CPU 温度,M/B 温度を監視していましたが, 一時, Enermax のファンを最小回転から若干回転数を上げるという 対策を取り,何とか夏場を乗り切りました.


MRTGを使用して監視したCPU温度,M/B温度の推移(年間グラフ)

 MRTGは温度変化を一定時間の平均で記録するため,『年間推移グラフ』 にすると,ピーク値がかなり鈍ってしまいます.定期的に見ていた限りで 言いますと,多少負荷をかけた状態でM/B温度(電源温度)は夏の盛りで60度 弱,CPU温度は50度前後まで上がりましたが,とりあえず問題になりそうな レベルまでは行きませんでした.

 なお,現在は RRDtool を使用して監視するように変更しており,ピーク 値などもチェック出来るようにしています.


RRDtoolを使用して監視したM/B温度の推移(週間グラフ)

■ケースFANの発するノイズについて
['03/02/13]追記

 私の環境では,気になるほどの大きな問題は発生していませんが,ファン ケーブルの取り回しや取り付け方法,その他要因によって,Enermax UC-9FAB を使用するとアナログ系にノイズが乗りやすいという事象が報告されています. 例えば,音声録音/再生時に,『ジジジ…』と,ノイズが乗る場合にはこの 原因を疑ってみると良いでしょう.

 対策としては,他の静音 FAN に交換することが考えられます.交換する 際には,前述した ADDA のファンや,今回は検証しませんでしたが,性能に 定評のある Nidec のファン等に交換すると良いでしょう.

 また,この Enermax のファンは,ファンブレードに埃が吸着しやすい ように思います.ファンの発する音が少し大きくなってきたかも…と, 思われるときには,一度ファンを掃除すると良いと思います.


 掃除の際には一度ケースを開け,ケース内部やドライブの隙間も埃の 除去をした方が良いでしょう.私のマシンでは半年ほど連続稼働させた ところ,埃が詰まることにより吸気がスムーズに行かずに内部温度の上昇を 引き起こしていたり,FDD が埃で詰まって使用できなくなっていたという 事故が発生しました.

 基本的にフロントからの吸気になりますので,下図に示すような対策が 低コストかつ有効です.ティッシュペーパーが埃で変色した際には,適時 交換するようにしてみてください.


原始的なフィルタの設置


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