Mobile AthlonXP-M 2600+ の使用

['04/05/16] 初稿

■K7DDRのパワーアップ
■高速な CPU を必要とする訳
 メーカーが公開しているスペック表によると,K7DDRは,AthlonXP 2600+ までの CPU に対応し ています.しかし,(正式には)K7DDR は FSB266MHz までしか対応していません.そのため,海外 では FSB266MHz のタイプの AthlonXP 2600+ が入手できるようですが,日本国内では FSB266MHz のタイプは AthlonXP 2400+ までしか入手しにくい状況のため,実質的に K7DDR で利用可能な 最強の CPU は,AthlonXP 2400+ という状況でした.

 ちなみに AthlonXP 2400+ のスペックを簡単に見てみますと,実クロックは2GHz(133x15倍)と なる Thoroughbred コアの CPU であり,L2 キャッシュは 256KB,コア電圧は 1.65V で TDP の MAX は,68.3W です.TDP が高めのため,冷却周りで少々苦労するかもしれません.

注)以下,特に断りのない場合,ベースクロックはシステムバスクロックで表記します.つまり, BIOS 画面で設定するメモリのベースクロックが 133MHz の場合,システムバスクロックは 2倍の FSB266 MHz となります.

 さて,私の K7DDR のパワーアップの状況を書きますと,こちらのページ に書いたように,消費電力と CPU パワーのバランスを考え,コア電圧1.5Vの AthlonXP 1800+を 選択しました.また,CPU の冷却に関しては,こちらのページ に書いたように,試行錯誤の末,静音性と冷却性能のバランスを考えて FalconRockII+Panafloファン という構成に落ち着きました.

 昨年(2003年)は,これだけ CPU パワーがあればまず問題ないなと考えてい たのですが,動画のエンコードを頻繁に行うようになると,要求水準が高くなります.具体 的には,DVカメラで撮影した動画を MPEG2 に変換して DVD-R に焼いたりですとか,TV録画 したファイルを MPEG1/DivX へ再エンコードするような用途です.Officeアプリの 利用や Web 閲覧等の日常的な利用であれば, 1GHz 程度の CPU でもパフォーマンス的に それほど問題ないと言えますが, 動画のエンコードは非常に大きなCPUパワーを必要とします.また,エンコード能力を向上させる ためには, CPU パワーの向上以外には方策が無いため,自ずとパフォーマンスの 改善のためには CPU の換装が必要となってきます(over clockを除く).

 とは言え,動画エンコードは処理は非常に重い処理であるため,例え現在入手可能な最高 クロックの CPU を利用したとしても,実時間の数分の1以下の時間で行うことはできません. そのため,多くの人は,寝る前に一通りのジョブを仕込んでおいて夜中にエンコードを行わせ, 翌朝起きると一通り終わっている…のような感じで使われていると思います.しかし,この 処理時間を少しでも短縮し,少しでも快適にエンコードを行いたいというのは誰もが考えること でしょう.

 最近は 3GHz over の Pentium4 の価格が安くなってきています.また,私が動画エンコード用に 愛用している TMPGEnc は, Pentium4 HT を使用すると高いパフォーマンスを示すことが知られてい ます.そのためもあり,一時はメイン環境を Asus Terminator2 に移行し, Pentium4 への移行を 検討していました.しかし,Terminator2 は,拡張スロットがAGP*1,PCI*1という構成のため,私の 用途にはマッチしないということで移行を断念.そこで今回,K7DDR の CPU をパワーアップする ことにしました

■低消費電力,低発熱,高パフォーマンス
 一昔前,Athlon は『(Pentium3と比較して)高発熱のCPU』ということで一部の人から 敬遠されていたきらいがあるのですが,現在は Pentium4 の高クロック化に伴う ムチャクチャとも言える高発熱化のため,Intel製 CPU よりも高発熱とは 言えなくなってきました.とは言え,これは『Pentium4と比較した場合』であり,AthlonXP も 高クロック化に伴って『絶対値として』消費電力が上昇しています.そのため,大型ヒートシンクを 利用できない小型ケースを使用したベアボーンでは冷却問題が発生するほか, 電源への負担も無視できない ものになりつつあります.Terminator K7DDR においてもこの問題は無視できないもの であり,『低消費電力&低発熱であり,かつ,パフォーマンスの良い CPU』 という ムシの良い CPU が望まれます.(前述したとおり,私はこれらの問題を考慮し,コア電圧 1.5V の『苺皿』を選択して使用してきました.夏場の使用を考えると,60W を超え るような CPU の使用は躊躇してしまいます).

 また,最近は,AthlonXP のメインストリームが Thoroughbred コアから Barton コアに移行しつつあります.Thoroughbred は 2次 キャッシュが 256KB であったのに対し,Bartonコアでは 512KB に倍増しています.これは Pentium3 vs Pentium3-S と同様に,多くのベンチマークソフトのような小さなコードを 繰り返し動かすソフトではその違いが明確に表れませんが,大きなソフトを利用するような 場合や,日常利用での体感速度という面では,パフォーマンスが大きくアップします.しかし ここにも K7DDR では壁があり,デスクトップ向け Barton コアの CPU は FSB333 MHzのものしか ラインナップされておらず,また, K7DDR は Barton コアに正式対応しません.今後 FSB266 MHz タイプの Barton が出るのかという話になると,AMD の CPU は Athlon64 にシフトしつつ あることや,バリュー向けは Barton コアの L2 キャッシュを半分にした Thorton コアに なりつつあるため,まず期待できないでしょう.

 と,ここまで書いた所でピンと来た人が多いと思いますが,AMDはノート型PC用 CPU と して, AthlonXP-M というシリーズをラインナップしています (以前,Mobile AthlonXP というブランドであったものを名称変更).このシリーズの CPU の大きな 特徴は,コア電圧 および消費電力が低く抑えられており,低発熱なことです.また,ソケットAにそのまま刺さる形状 になっているため,物理形状はデスクトップ向けの AthlonXP と互換です.ただし, ノートPC用ということ で,動的なコア電圧およびクロック倍率の変更が可能になっているほか,VID設定(コア電圧 の設定に使用)がデスクトップ用 AthlonXP と異なるという差異があります. (注:XP-Mは,Desktop Replacement,Mainstream,Low Voltage, Mobile AMD Athlon4という より細かなシリーズ分けがなされています)

 かく言う私は,Mobile AthlonXP の低消費電力に惹かれ,一時 Mobile AthlonXP 1800+ を 使用していました.そのパフォーマンスや発熱状況等に関しては, こちらをご覧 ください.実際に使用してみたところ,その低発熱には見る物がありました. しかし,モバイル系 CPU を使用するために必要な『下駄』が生産中止になり,入手困難になった ことは皆さんご存じの通り.また,下駄を履かせる分,背が高くなり,CPU クーラーの形状に 制限が課せられるというデメリットもありました.

 そのため,モバイル系 CPU は,『対応M/B以外では』あまり積極的に使おうという人が 居なくなったように感じられました.しかし,最近は再び増えてきているようです. その理由は,以下の点にあると思います.

    1) 低消費電力&低発熱
    2) クロックアップ耐性が比較的高い
    3) コア電圧をかなり落としても動作し,低発熱CPUとして打って付け
    4) Dual動作も可能
    5) 定格で FSB266MHz のため,FSB333/400 非対応 M/Bのアップグレード用として
    6) デスクトップ用M/Bに挿した際に,下駄無しではコア電圧が 1.575[V] (定格では1.45[V]) になるが,この状態でも普通に使える
    7) ソフト的にクロック倍率を変更可

 特に5〜7の理由が注目されているようです.

 ちなみに,AthlonXP-M シリーズには,様々な CPU コアが使われています.基本的に, 現在は同一モデルナンバーであれば複数のコアが混在していることは無さそうなのですが (ただし,保証はできません),モデルナンバーが 1400+〜2200+ のものは Palominoコア, Thoroughbredコア,(通称)偽皿,が混在しています.そして2400+, 2500+, 2600+ は Bartonコアであり,それ以上のモデルナンバーには,AthlonXP-Mとなっているけれども Athlon64コアベースのものもある(300+)ようです.

 現在,店頭で入手容易な最高クロックの AthlonXP-M は 2600+ です.また,今後は Athlon64 コアのものに移行する(Mobile Athlon64 というシリーズに移行?)ことも考えられるため,実質的に(店頭に出回る物としては) AthlonXP コアのモバイル用としては AthlonXP-M 2600+ が最後のものになるのではないかと 個人的には考えています.

■AthlonXP-M 2600+
■購入と取り付け
 PC-One's で,プライスリストに『Mobile AthlonXP 2600+ (47W)』と,書かれている ものを購入しました.正式名称は『AthlonXP-M 2600+』ということで良いと思います. なお,Athlon関係の情報は,Fab51が大変参考に なりますので,まずはこちらを読まれることをお勧めします.

 本CPUの正確なスペックを調べるため,AMDのサイトでdatasheetを探してみたのですが, 残念ながら見つけることは出来ませんでした.あちこち調べた結果,分かったスペックは 以下の通りです.

    CPU名   :AMD Athlon XP-M 2600+
    シリーズ名:AMD Athlon XP-M
    CPUコア  :Bartonコア
    実クロック: 2GHz
    FSB    :266MHz
    倍率(定格MAX):15倍
    キャッシュ: L1/64K+64K (code/data); L2/ 512KB
    コア電圧: 1.45V
    プロセスルール: 0.13Micron
    ソケット: Socket A
    マルチメディア拡張命令: MMX, SSE, 3DNOW!, 3DNOW!+
    
AthlonXP-M 2600+ .PCワンズ 店頭で 14,670円で購入.デスクトップ向けの同モデルナンバー CPU と比較すると,かなり割高です.

AXMG2600FQQ4C
ブリッジとコアの拡大図.L2キャッシュが倍増しているため,Thoroughbredコア よりもダイが大きいのが分かる

 Mobile Athlon4が話題になっていた頃は,モバイル向け CPU が品薄で入手困難な状況もありましたが, Mobile AthlonXP 以降,かなり潤沢に流通しているようで,特に苦労もなく店頭で 購入できました.ただし,モバイル向け CPU の流通状況を見ていると,急に品薄 になったり,入手が絶望的になったりすることも過去に多々ありました.欲しい人は 入手できるうちにしておいた方が良いでしょう.

 取り付けは至って簡単で,デスクトップ向け CPU 同様,普通にソケットに取り付けるだけでOKです.

 以下,安定動作するかや,Bartonコア非対応の K7DDR で動作するか,そして発熱の 状況を確認して行くことにします.

■動作チェックと設定
■起動チェック
 まず起動チェックです.電源を入れると『ピッ』というビープ音がし,普通に 起動しました.K7DDR は Bartonコア非対応ですが,とりあえず普通に起動出来ました.

 しかし,POST 時に画面に表示される CPU 名は,グシャグシャに 潰れて表示されて判読できません.そして動作 クロックは 800MHz と表示されます.下調べをしていないと焦る所ですが,この 状態は正常です.次に BIOS 画面に入り,Vcoreを確認すると,案の定 1.575[V] が CPU に供給されていました.AthlonXP-M 2600+の定格よりも 0.125[V] 高い電圧ですが, モバイル用 AthlonXPをデスクトップ用 M/B に搭載した際の振る舞いとしては,これで 正常です.

 この状態で OS の起動やソフトの利用も普通に行えました.ただし,そのままの状態では, AthlonXP-M 2600+ は 800MHz で動きますので,『遅いじゃねーか!』と,なるでしょう

■ソフトの設定
 AthlonXP-M は,ソフト的にクロック倍率やコア電圧をコントロールすることが 可能という話は前述した通りです.そして何も設定せずに起動すると,クロックが800MHzに なるのは,この設定・制御がなされていないためです.つまり,何もしないと 倍率は 6倍に固定され,133MHz*6 =800MHz で動きます

 OS として Windowsを利用するのであれば,CPU 倍率の変更は CrystalCPUID を使うのが 良いでしょう.Vectorからであれば, こちら からダウンロードできます.作者のページはこちら (現在落ちてる?)です.

 以下,使い方に関して簡単に説明します.詳しくはソフトのドキュメントを参照して下さい.

まず,CrystalCPUIDを起動し.『ファイル』メニューから『Multiplier Managementの設定』 を選択します

次に Multiplier の設定を行います.
ここではテストのために,高負荷時/中負荷時/低負荷時何れの場合もクロック倍率を 15倍,即ち定格の最大クロックにするように設定しています.もし,低負荷の場合には クロックダウンするように設定したい場合は,Middle, Minimum の Multiplier をより低い倍率に設定してください.CPU の発熱を押さえることが出来ます. (ちなみに定格以上の倍率にしたい場合は,CPU を改造する必要があります)

次にコア電圧です.CPU は M/B に対し,『私は○[V]で動かして下さい』という情報を VID 端子でアナウンスします.しかし,AthlonXP は,デスクトップ用とモバイル用は VID の設定が異なり,(M/B 側から見ると)同じ VID 設定であっても,CPU は異なる電圧を リクエストしていることになります.VIDと実際のコア電圧の対応状況に関しては,詳しく まとめられたページがありますので, Fab51 Athlon Barton #3: コア電圧の変更方法 を参照して下さい.この表からも分かるとおり,AthlonXP-M 2600+ は定格が 1.450[V] であり,VIDは "C:C::" です.しかし,デスクトップ用CPUでは,この VID は 1.575[V]を 指定する設定であるため,K7DDR でもコア電圧として 1.575[V] が供給されてしまうわけ です.

 デスクトップ用 CPU に対して1.45[V]を指定するためには,VID は ":CCCC" とする必要 があり,この設定はモバイル用 CPU では 1.275[V] に当たります.そのため,画面中の 『Voltage』は1.275[V]を指定しているというわけです.

しかし,K7DDR ではこの設定が有効にならないようであり,Asus PC Probe で確認する と,1.275[V] を指定しても,起動時に指定された1.575[V]が出続けています.コア電圧の ソフト的なコントロールは無理なようなので,あきらめることにしました.もし,定格通り の電圧を CPU に供給したいのであれば,『下駄』を使用し,VID ピンを直接操作するよう にして下さい.

一通りの設定の終了後,『拡張機能』の『Multiplier Management』を有効にして ください.これで CrystalCPUID が常駐し,CPU負荷に応じてクロック倍率を動的に セットするようになります.タスクトレイのアイコンでその状況を見ることが出来るほか, マニュアルで『最高に固定する』のようなことも出来ます.
メインウインドウに戻って[WT]画面をアップデートし,現在のクロックを確認して みてください.上記のような設定を行った場合,Internal Clock の Currentは 2GHzに なっている筈です.
なお,『AMD K7/K8 Multiplier』で設定を行い,『Create Shortcut on Desktop』 をしておくと,起動後にデスクトップのショートカットを叩けば任意の倍率に即座に 変更できるので大変便利です.Multiplier Management機能を使わないのであれば, これをスタートアップで 自動起動するようにしても良いかもしれません(ただし,Over Clock する設定の場合, 起動しなくなる場合もあるのでテストは慎重に).

 コア電圧を定格まで落とすことが出来なかったのは残念ですが,上記の 設定で定格通りのパフォーマンスを発揮するようになりました.

 次に Windows のレジストリを変更します.基本的にセット・アソシエイティブ方式の L2キャッシュを持つ CPU を利用している場合,L2 キャッシュのサイズは Windows に 自動認識されるため,レジストリを変更しなくても良いようです.しかし,自動認識 に失敗している場合もあるようで,サイズを指定することによりパフォーマンスアップ することがあるようです (自動認識に失敗し,かつ,このレジストリが指定されていない場合,Windowsは L2 キャッシュは 256KB であるとして振る舞う).

 設定を行うには RegEdit を使用し, HKEY_LOCAL_MACHINE\System\CurrentControlSet\Control\Session Manager\Memory Management の『SecondLevelDataCache』を10進数で512に指定します.この説明で不安を感じる方は, レジストリを変更しない方が良いかもしれません.最悪,Windows が起動しなくなります.

■パフォーマンスと発熱状況のチェック
■L2 キャッシュ 512KB の効果
 Bartonコアでは,Thoroughbredコアで 256KB であった L2 cache が倍増しており, 512KB になっているのは前述した通りです.CPU オンダイの L1/L2 キャッシュは CPU から 高速にアクセス可能ですが,M/B 上に取り付けられたメインメモリへのアクセスは非常 に低速です.つまり,処理を行う上で何らかのデータにアクセスする必要があり,それが キャッシュ上に乗っていない場合,低速なメインメモリからデータが読み出されるまでの間, CPU は待ちに入ることになります.キャッシュが大きいということは,それだけ低速な メインメモリへのアクセスが軽減される可能性があり,CPU の稼働率が上がることから, 全体的なパフォーマンスの向上に繋がる可能性があるということです.

 とは言え,キャッシュ増加の効果は,小さなソフトを繰り返し動かすようなベンチマーク ソフトの結果では現れにくい(コードの大半がキャッシュ上に乗ってしまい,メインメモリへ のアクセスが少なくなるため)反面,人によってPCの利用形態が異なることから,万人の体感 速度と合致するような客観的指標を持つベンチマークソフトを作成することは困難です.

 そのため,L2 キャッシュがどの程度の効果をもたらすかに関し,今回はメモリ転送速度を 直接測定し,L2 キャッシュ倍増の効果を見ることにしました.

 メモリアクセス速度を調べるソフトはいくつか存在しますが,今回は,手軽に実行できる TestCPUを使用しました. 最近アップデートが行われていないのが残念ですが,今回のような用途には充分役に立ちます. なお,測定条件の中にあります FSB333MHz (メモリクロックは166MHz)の設定は,BIOSで行い ました.当然ながらメーカーが動作保証していない over clock状態です.

メモリ転送スピードの測定結果
(オンボードVGAを利用しているか否か,解像度や色数によって結果は 変化します.
下記データは,オンボードVGA/SXGA/32bit/75Hz 条件で測定を行いました)
MOVでの計測
MOVSDでの計測

 以上の結果から,以下の事柄が分かります.

  • FSBが上がるとメモリ転送スピードも上がる
  • AthlonXP-M 2600+ は AthlonXP 1800+ よりも何れの条件においてもメモリ転送スピードが速い
  • 何れの CPU の場合でも,1L cache(data) の容量である64KBを超えた所で1段下がる
  • AthlonXP 1800+では,256KB の所でもう1段下がるが,AthlonXP-M 2600+ では 512KB の所で下がる
  • 1MB を超えた所ではどちらもあまり変らないように見える(後述)

 この結果から,Barton コアに対応していない K7DDR でも,512KB の L2 キャッシュは 機能している ことが分かります.また,コアの最適化の影響もあるようで,256KB以下のブロックサイズの 転送を行った際に,AthlonXP 1800+ を FSB333 で動作させたときの速度よりも,AthlonXP-M 2600+をFSB266 で動作させた場合の方が,5% ほど高速です.そして L2キャッシュの増量はメインメモリの転送速度にも影響を与えており,グラフ上は殆ど 重なって見えますが,ブロックサイズが 1MB 以上のデータを転送する際にも,AthlonXP-M 2600+ は AthlonXP 1800+ よりも,何れの FSB においても 10% 程度高速です.

 とは言え,キャッシュヒット率はどのようなソフトを利用している場合でも常に一定という わけではありません.上記のデータは絶対値としてではなく,参考値として見て下さい.

■hdbench,SuperPIでの比較
 K7DDRには Windows しかインストールしていませんので,UNIX 用の Bytebench ではなく, 広く使用されているHDBench 3.22 のみでベンチマークを取ることにしました.なお,本サイトのコンテンツ内でも度々書いていること ですが,あくまでもベンチマーク結果はパフォーマンスの1つの指標ということで見て下さい.

 まず,測定の環境ですが,測定は Windows 2000 (SP3/SP4)上で行い,VGA はオンボード(SiS 740) を使用しました.そして AthlonXP 1800+ の FSB333 条件はUXGA(1600x1200)/32bit/75Hz で測定を行っており,それ以外は,SXGA(1280x1024)/32bit/75Hzで測定を行っています. なお,ビデオドライバに関しては AthlonXP-M 環境では現状の最新版にアップデートして計測 しましたが,1800+ は CD-ROM 同梱のドライバで計測を行っています.数値を見る際には,これら の点にご注意下さい.その他,ディスクのベンチ結果に関してはあまり差が見られなかったため, 割愛しています.

CPU 条件 Integer Float MemoryR MemoryW MemoryRW DirectDraw Rectangle Text Ellipse BitBlt
AthlonXP-M 2600+ FSB266 85531 104055 18995 21803 26287 30 20552 19570 9900 88
FSB333(x14) 99396 120930 24667 26919 32642 30 26759 24400 12280 45
AthlonXP 1800+ FSB266 65572 79581 18930 21333 25793 30 20320 19171 9193 34
FSB333 81645 99332 21955 26256 30698 30 23000 21800 10500 72

 この結果から,以下のようなことが分かります.

  • FSBを上げるとパフォーマンスが上昇する
  • VGAパフォーマンスは,CPUの換装による変化は見られないが,FSB を上げる ことによって大きく上昇する
  • HDBenchの結果では,同一FSBにおいて AthlonXP-M 2600+の方が若干メモリ 転送速度が速いが,それほど大きな差ではない
  • CPUの演算能力は,CPU を換装にすることによって大きく上昇している

 メモリ転送速度に関しては,前述したような原因により,HDbench では顕著な 差が出ていない可能性があります.

 次に,上記結果を棒グラフにした結果を示します.


HDBench 3.22の結果

 グラフを見ると一目瞭然ですが,AthlonXP 1800+ をオーバークロックし, FSB333 にした際(実クロック:1.9GHz)の結果と AthlonXP-M 2600+ を定格 (実クロック:2GHz)で動かした際の CPU パフォーマンスはほぼ同じになります. この結果は,動作クロックを考えると順当な値と言えます.つまり,CPU を高クロック のものに換装することにより,実クロックの上昇に応じたパフォーマンスを得られた ということが言えます.

 そしてFSB333 条件の AthlonXP-M 2600+ は素晴らしいパフォーマンスを示しています. HDBench の結果を web で検索してみたのですが,(同一条件で測定していないため, 厳密には比較出来ないのですが)200*11.0MHzで動作している AthlonXP 3200+ よりも 良好なパフォーマンスが出ているようです. (尤も,3200+ は FSB400 で動作していますので,CPU のパフォーマンスアップだけ ではなく,FSB アップによるパフォーマンスアップを考慮してモデルナンバーが付加 されているということを念頭に置いてベンチ結果を見る必要がありますが).

 次に SuperPI104万桁の 結果ですが,AthlonXP 1800+でXGA/32bit,75Hz条件で計測を行った 際には,85 [sec] でした(VGAとして PCI 接続の GeForce4 カードを使用し, オンボード VGA へのメモリアクセスを限りなく減らした場合でも 76[sec]).それが AthlonXP-M 2600+ では,定格で 70[sec], FSB333 時には 55[sec] になりました. SuperPI は CPU 速度とメモリ帯域に非常にセンシティブなベンチマークと言われて いますので,UMA かつ dual channelでないM/Bを使用しているにも関わらず1分を 切れたということは,かなり良好な結果が出ていると言って良いと思います.

 少し調べてみた所,dual channel で無い Pentium4 3.0GHz 構成のマシンで 104万桁を計算した場合でも,ほぼ同じくらいの時間になるようです.

 ちなみに TerminatorTU で Celeron1.4GHz (FSB 100MHz*14) を使用すると,オンボード VGA を SXGA/16bit/75Hz で使用している場合で 182[sec].PCI VGA を使うと 151[sec] でした.Terminator P4533 で Celeron2.4GHz を使った場合で 119[sec] くらいとのこと ですので,Terminator シリーズとしては非常に良好な成績であると言って良いと 思います.

■発熱の検証
 いくら高パフォーマンスであったとしても,安定稼働しなければ意味がありません. 特に大きな懸念事項となるのは,CPU の発熱による不安定化です.高発熱 CPU を 利用している場合, 冷却性能にかなりのマージンが得られないと,例え冬の寒い時期は安定して 稼働していたとしても,夏の暑い時期は問題が起きかねません.

 本 K7DDR では,CPUクーラーとして,こちらで 解説した通り,FalconRockII+Panafloを使用しています.とりあえず 正常に起動し,ベンチマークも普通に完走したわけですが,これだけで安定稼働 すると認識してはいけません.なぜなら,長時間過負荷に陥った際の CPU や M/B(電源) 温度の推移に関しても十分注意しなければならないからです. 詳しくは『そして故障…【AthlonXPの温度とAsus PC Probeの嘘】』 でも書きましたが,これらのことがクリアでき,また,気温の上昇に対しても 充分なマージンが認められた上ではじめて,安定して使える構成と言うことが出来るでしょう.

 そこで前回同様,午後のこーだを使用した耐久試験(10分間)を行うこととし, 各温度は MBM を使用して監視することにしました.結果は以下の通りです. なお,室温は24.8度の状態で行い,クロック倍率は 15倍の『最高パフォーマンス固定』の 状態で行いました.

※Sensor1:Asus PC Probe の報告する CPU 温度と同値.
 Sensor2:同 M/B(電源)温度
 Sensor4:AthlonXP内蔵のサーマルダイオードから取得した CPU コア温度

AthlonXP-M 2600+ FSB266 (133*15倍)条件
センサー名 実験開始前[℃] 1分後[℃] 5分後[℃] 10分後[℃]
Sensor1 45 46 47 47
Sensor2 51 50 49 49
Sensor4 58 64 64 64

※M/B温度が次第に下がっているのは,MBM 起動後,ケースファンがフル回転し始めた ためだと考えられます.本来であれば MBM 起動後にしばらく放置し,温度が一定に なった後に計測開始すべき所ですがご容赦を.今回は温度値を補正して検討する こととし,再計測は行いませんでした.

 前回の AthlonXP 1800+(Vcore 1.5[V]) での測定結果と比較すると, AthlonXP-M 2600+ (Vcore 1.575[V]で駆動) は,午後のコーダ10分間の負荷をかけた 時点で,6.8度も低い(気温差が1.8度あるため,64-(69+1.8)=-6.8)という結果に なります.クロックが高く,コア電圧も高く,そして(発熱体にもなる)L2 キャッシュが2倍であるにも関わらず,コア温度は逆に低いという結果です. 俄には信じがたいことですが,Mobile AthlonXP 1800+ と比較した場合でも, AthlonXP-M 2600+ は低い温度になっています.

 同様の現象は他の方も体験されているようです.その中で,『Bartonコアでは,消費 電力は上がっているが発熱量は減っているんではなかろうか』とのコメントも出ている ようです.しかし,物理法則を考えますと,この考えには同意できません.私の考えでは, コア面積が増加しており,ヒートシンクとの接触面積が増加したため,放熱が効率的に 行えるようになり,その結果コア温度が上昇しにくくなっている(冷却効率が高くなって いる)ためではなかろうかと思います.

 次に夏の暑い時期における安定性を考えてみます.今回は気温24.8度の環境下で測定 しましたが,仮に室温が10度上昇し,34.8度になった状態を考えた場合,計算上はコア 温度が74度にまで上昇しますが,とりあえずは動作可能な範囲内であると考えられます. ですので,夏の暑い時期に於いても問題なく安定して動作すると思われます.

 最後にオーバークロック時の発熱に関し,FSB333 での動作を検証してみました.

AthlonXP-M 2600+ FSB333 (166*14倍)条件
センサー名 実験開始前[℃] 1分後[℃] 5分後[℃] 10分後[℃] 計測後放置
Sensor1 45 47 49 49 44
Sensor2 52 52 51 51 48
Sensor4 61 68 69 68 59

※こちらも先の計測時の問題と同じ問題が出ています.しかし,少なくとも上記  計測結果では,M/B温度とCPU温度は直接的な相関関係は無いように見受けられます.  仮にあったとしても,その差は1〜4度の範囲であると思われます.

 こちらも AthlonXP 1800+(Vcore 1.5[V])よりも低い温度になっていることが分かります. 具体的には,7.8度も低いことが分かります.Barton コアの CPU は,オーバークロック時に おいても冷却し易い CPU と言うことが出来ると思います.

■まとめ
 K7DDR で一度痛い目に遭ったため,正直な ところ『あまりアグレッシブな拡張は行わず,できるだけ弄らず,安定重視で』 といった安定志向で利用していました.しかし,AthlonXP-M 2600+ が思いの外評判 が良く,また,入手性も良い上に価格もそれほど高くないという現状を見るに付け, 久しぶりに少しリスクを伴った拡張をしてみようかなと思った次第です.

 その結果,K7DDR ではデスクトップ向け Barton コアのCPUは動作しないという 情報がありましたが,モバイル向けの Barton コア CPU は動作し,かつ,安定稼働 しました.発熱に関しては,コア電圧が定格よりも高いにも関わらず低く押さえられ ており,また,パフォーマンスは予想以上に上がりました.  ただ残念なことは, FSB333に設定をすると,(私の環境が問題である可能性も ありますが)Win2k の起動時に 『Cドライブがおかしい』というエラーが表示され, chkdsk に行く こと.ともあれ,深刻な事態には至っていない(ファイルが消えたり ディスクに深刻なエラーが出たりはしていない.また,起動後は何事もなかったか のごとく動く)ため,普段は FSB266 で動かし,パワーが必要なときには FSB333 に 変更して動かすといった方法で運用しています.

 今後,AthlonXP 系列は終息していくことが想像に難くなく,また,K7DDR では FSB266 までしか正式にサポートされていません.そのため,K7DDR では, AthlonXP-M 2600+ が最強の CPU であり,かつ,最後のアップグレードパスに なるかもしれません

 個人的には,最近 Asus がややミーハーな方面を志向しているような気がして なりません.Terminator ユーザーの間でも最近声が上がっていますが,Terminator TU や K7DDR が志向していたような,『省スペース,高パフォーマンス,そこそこの拡張性』 を満たした,Pentium-M もしくは Athlon64 が利用可能な Terminator の出現を切に 祈って止みません.このような魅力的な PC が出るまでは,K7DDR が私のメインマシン としての座を占め続けることになりそうです.


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