K7DDR における静音化の検討 【CPU クーラー1】

■K7DDR 静音化の難しさ
■TU と K7DDR の違い
 Terminator TU の静音化に関する対策は,一連のページ (その1その2その3その4)のに記載した方法で行いました. その内容を要約すると,以下のようになります.

  • ケースファンの静音タイプへの交換とファンガードの除去
  • CPUクーラーのファンレス化
  • ディスクをスマートドライブへ入れることによる動作音の遮音
  • 吸音材を使用しての遮音

 基本的には,ほぼ同様のアプローチが K7DDR にも適用可能だと考えら れますが,TU と K7DDR とでは大きな違いがあります.それは CPU の発熱 量です.

 現在私が TU で使用している CPU は,Intel Pentium III-S 1.26GHz です. この CPU の TDP は 29.5[W] であり,Socket370 を使用した CPU として は,比較的高消費電力のものです(クロック比では必ずしもそうでは ありませんが).

 一方 AMD 製 CPU は,Intel 製 CPU と比較した場合,発熱量が高いという 定説がありました.とは言え,Pentium4 はかなり凄いことになっている ので,絶対値としては似たり寄ったりだと個人的には思っていますが…. しかし,現行の AthlonXP と Pentium3 とを比較すると,恐ろしい程に 発熱量が異なることが分かります.以下に AthlonXP の発熱量に関する データを抜粋して示します.

AMD AthlonXP Processor Model 8 Data Sheetより抜粋
CPUIDが680.Thoroughbred コア A-Stepping.通称『偽皿』はこちら
周波数(model number) Vcore[V] Thermal Pwer(Maximum) Thermal Power(Typical)[W]
1467(1700+)1.549.444.9
1533(1800+)1.551.046.3
1600(1900+)1.552.547.7
1667(2000+)1.6/1.6560.354.7
1733(2100+)1.662.156.4
1800(2200+)1.6567.961.7

AMD AthlonXP Processor Model 8 Data Sheetより抜粋
CPUIDが681.Thoroughbred コア B-Stepping.通称『苺皿』はこちら
周波数(model number) Vcore[V] Thermal Pwer(Maximum) Thermal Power(Typical)[W]
1400(1600+)1.648.544.0
1467(1700+)1.5/1.649.444.9
1533(1800+)1.5/1.651.046.3
1667(2000+)1.660.354.7
1733(2100+)1.662.155.9
1800(2200+)1.662.857.0
2000(2400+)1.6568.362.0
2133(2600+)1.6568.362.0

 このように,Vcore 1.5[V] の Thoroughbred コアの AthlonXP, 通称『苺皿』は低消費電力であると言われており,確かに上記リストを 見るとそれも肯けます.しかし,苺皿 1800+ は最大 49.4[W]ですので, Pentium3-S/1.26[GHz] と比較した場合,最大 1.7倍もの熱を発すること になります(ちなみにクロック比は1.2倍).つまり,それだけ冷却が 困難になると共に,風量の低い静音ファンを利用した静音化も困難に なるということです.

■K7DDR で CPU ファンレスは可能か?
 当初,TU で使用していたサーマルコンポーネントよりも高性能な 85EX60X80-XP を使用すれば CPU ファンレスが 可能なのではないかと考え,試行錯誤をしました.この軌跡(と, 言うよりも悪あがき :-< )は, 崩壊そして復活そして故障…【AthlonXPの温度とAsus PC Probeの嘘】 を参照してください.消費電力が 35[W] である Mobile AthlonXP 1800+ を利用 した場合であっても,ファンレスはかなり困難であることが分かりました. 25[W] のタイプの Mobile AthlonXP や Mobile Athlon(900MHz)を使用すれば 可能性もありますが,そこまでパフォーマンスを落とすのは少々勿体なく感じ ていますのでトライしていません.パフォーマンスよりも静音を目指す場合は, Mobile Athlon 900MHz 辺りを試すと良いかもしれません.

■K7DDR で 静音ケースファンを利用するべきか?
 CPU の消費電力および発熱の増加が発生すると,電源温度やケース内温度も それに伴って上昇します.そのため,ケースファンに求められる排熱能力も 増加しますので,風量の低い静音ファンの利用は危険だと考えられます.

 とは言え,K7DDR は BIOS 設定により M/B 温度(電源温度)と連動してケースファン(CPUファンも) の供給電圧を変動させることが可能ですので,低い電圧が供給された 際には低回転でかつ低騒音.12[V]が供給された際には高回転かつそこそこの 低騒音というファンを取り付けておけば,普段の利用の際にはそれほど問題に ならないと思います.このような観点から考えますと,K7DDR に元々付いている ケースファンはかなり優秀であり,Terminator K7 ユーザーの方からお聞きした 話では,『K7 と比較すると素晴らしく静か』とのことです.

 ベストなのは高回転時にもあまり騒音の発生しないファンですが,なかなか そういったファンはありません.静音ファンは低回転化によって騒音レベルを 下げることが行われていますので,強力な排熱が必要となった際に 12[V] が供給された場合であっても,プアーなパフォーマンスしか発揮できない場合が あります.このような理由で,私はケースファンは交換せず,ノーマル状態の ままで利用しています.

■K7DDR に最適な CPU クーラーを捜す
■Cooler Master DORACO-XP
 崩壊そして復活のページで私の K7DDR の窮地 を救ったのが, CoolerMaster DORACO-XP です.CPU ファンレスであれこれ試行 錯誤を繰り返すのを止め,この CPU クーラーを取り付けて以降,安定稼働 するようになりました.以下,上記ページ内の説明と重複しますが,簡単に DORACO-XP に関して紹介します.

'02/06 に T-Zone 日本橋店で購入.通常価格は 3,980円だが,閉店セール のため,たしか半額くらいになっていた.実は閉店セールに出遅れて目当ての ものは買えなかったが,この手のパーツは結構残っていたので2個ゲット.

'03/07 現在,2千円台で売られているようです.

スペックはこのような感じ.

CoolerMaster DRACO-XP (DP5-7H53F-OC)
ヒートシンクは 80x68x37mm,ファンは 70x70x15mmサイズ.ファンの回転数は 内蔵する温度センサにより 2200〜4300rpmに可変.騒音は 26〜33[dB].
対応CPUは,Duron 1.4[GHz](1.3[GHz] OKってことです),AthlonXP は Palomino コアで 2200+ まで.Socket370 であれば,Pentium3/Celeron で 2GHzまで.

なお,メーカーページでは,ファンの回転数は2200〜4300rpm,エアフロー 37.54[CFM],騒音は26〜38[dB],対応CPUはAthlonXP (Throughbred)が 2600+まで,Duron が1.7GHzまで,Pentium3/Celeron が1.6GHz までと なっています.微妙に違うのが謎です…

ぱっと見,何の変哲もないCPUクーラーですが…
AMD 純正のCPUファン(BOX版に同梱されている)と並べてみると, 一回り大きいのが分かります.ファンはリテールの物は 6cm角ですが, 7cm角 のものを使用しています.

 この CPU クーラーは静音ファンが流行始めた初期の頃の物であり,それ ほど新しいものではありません.しかし,CPU温度によって自動的に回転数を 調整する機構が内蔵されており,また,放熱能力も充分ですので,現在の 高クロック CPU でも充分実用的に使うことができます.

■SPEEZE FalconRockII
 SPEEZE製の CPU クーラーで, Qualistaが国内総輸入元 になっています.

FalconRockII (5F271B1L3)(Qualistaの商品紹介ページ)
SPEEZEの商品紹介ページ

パッケージからしてかなり大きいです.ワンズでOWLTECH扱いを3,350円で購入.


スペックとしては,ヒートシンクが80x82x44mm,ファンが80x80x25mmとかなり 大型になっており,ファンの回転数は2300rpm,エアフローは27.99[CFM],騒音 が25[dB],熱抵抗値 0.544[℃/W]となっています.

対応CPUは,Pentium3が〜1.13GHz,Celeronは〜1GHz,AthlonXP(Barton)3200+, Palominoは〜2100+,Thoroughbredは〜2700+,Athlon(Thunderbird)〜1.4GHzまで, AthlonMP(Thoroughbred)は〜2800+,Duron は1.3GHzまでとなっています.

Pentium3 で何故に 1.4GHzに対応を表明していないか謎な部分がありますが, スペック的には『静音性』『冷却能力』のバランスの取れたよい物であることが 分かります.なお,ファンの回転数は固定です.


横から見るとこのようになります.
ご覧になると分かるとおり,逆四角錐的形状になっており,8cmファンが乗っています
コアの当たる部分には銅板が埋め込まれており,熱バッファとして働く ようになっています.

チューブ型容器に『高性能グリス』が入っているのでそれを使ってくれと パッケージには書かれています.このグリス,かなり粘度が高いので, 圧盛りしないように注意.シリコングリスのスペックは,2.062[W/m・k], 0.06[℃-in2/W]と表記されています.

 DORACO-XP よりも一回り大きいのが分かると思います.特にファンは 7cm角のものから8cm角のものになっている関係で巨大に感じます.しかし, 静音ファンを取り付けてある関係で,DORACO-XPと比較して,騒音レベル (MAX)が 33[dB]から25[dB]に低下するものの,回転数が落ちると共に, エアフローは37.54[CFM]から28.0[CFM]に低下しています.

 DORACO-XP の方は熱抵抗値が公開されていないため,CPUクーラーと しての純粋な性能は不明ですが,FalconRockII は Athlon使いには非常に 評判が良く,また,高クロック CPU にもメーカー公式対応していることから, DORACO-XP と比較して遜色のない性能ではないかと思われます(思っていま した).

 CPU クーラーの静音化を考える場合,一般にファンの大きさを大きくし, 回転数を下げるというアプローチを採ることが多いでしょう.小型のファン は回転数を上げることによりエアフローを稼ぐようにしているため,それに 伴って騒音が増加している場合が多いためです.そして CPU ファンは一般に 6cm 角のタイプが使用されており,ヒートシンクは 6cm のファンが取り付け られるような形状になっています.静音化を行う場合,これに対して 『ダウンバースト』と呼ば れるアダプタを取り付け,8cm ファンを 6cm ファン用のヒートシンクに取り 付けることが多いでしょう.

 しかしこの方法は,アダプタの分だけ CPU クーラーの背が高くなるほか, ヒートシンクの性能は向上しません.そのような意味で,FalconRockII は 背丈も低く,8cm ファンがそのまま利用可能であり,ヒートシンクも強化され ているという意味で,非常に良いセットであると言えます.

■予備知識:CPUクーラーのスペックについて
 順番は前後しますが,CPUクーラーを選択する意味で気を付ける点やスペック の見方について,簡単に説明します.

 まず,ファンの所で出てきた『rpm』という単位ですが,これは多くの人が ご存じの通り,revolutions per minute の略であり,1分間に何回転するか を表しています.この値が大きいほどファンブレードの回転が速くなり,それ に伴って風量および騒音が増します.次にファンの性能を表す『CFM』ですが, これは Cubic Feet per Minute の略であり,ファンが何立方フィートの空気を 1分あたり排気/吸気できるかの単位です.1feet は 30.48cm なので,1立方 フィートは,約28316立方cm,つまり0.028316立方メートルになります.

 DORACO-XP に使用されているファンは 37.54[CFM],FalconRockII のファンは 28.0[CFM]ですので,それぞれ1.06[m3/min],0.79[m3/min]のエアフローがある ことになります(m^3をm3と表記).つまり,理論値ではそれぞれ1辺あたり 1[m],0.93[cm]の立方体の空気を流す能力を持っているということになります. しかし,これはヒートシンクに取り付ける前の値です.ヒートシンクに取り付 けたり,吸気口およびヒートシンクの周りの排気スペースに抵抗(静圧)があ る場合は激減するので注意が必要です.

 最後に,CPU クーラーとして性能を表す値として最も重要な『熱抵抗値』 ですが,これは1[W]の熱量を加えた際に,何度温度が上昇するかを表しています. 単位は『℃/W』であり,値が小さいほど高性能な冷却器であると言えます.

 簡単な例を挙げると,CPUファンの周りの空気が30度であった場合,0.5[℃/W] の CPU クーラーを使用した際に,CPU が 50[W]の発熱をすると,CPU の温度は 50*0.5+30=55[℃]に冷却されます(理論値).基本的には,この温度を CPU の 最大許容温度以内に収めれば,CPU の温度的には問題なく稼働するシステムに なります.(ちなみに Athlon ベースのCPUクーラーとして絶大な人気を誇る ALPHA の PAL8045U は,0.28[℃/W]という素晴らしい値になっています.しかし これは M/B 側にネジ取り付け用の穴が必要であるため,K7DDR には物理的に 取り付けることが出来ません)

 しかし,上記の数値はあくまでも理論値です.CPU コアと CPUクーラーの間 には密着性を高めて熱を効率的に伝導させるためにシリコングリスを塗布し ます.これ自身は片側で発生した熱をそのままもう片側に伝導出来るわけでは ありません.どの程度熱を伝えることができるかは,『熱伝導率』で示します. 単位としては,『W/m・K』([Kcal/m・h・℃]で表す場合もある.この場合の 換算は,1[W/m・K]=8.6000*10^-1[kcal/m・h・℃])で表し, 面積1平方メートル,厚さ1メートルの部材を通し,両端の温度差が1[℃]の ときに1時間あたり何[W]の熱を伝導できるかを表しています.大きいほど 熱を伝えやすい物質と言えます.(ちなみに最近はシリコングリスの熱伝導率 を上げるために様々な物質を添加することが行われていますが,熱伝導率は 『ダイヤモンド>銀>銅>金>アルミ>鉄』の順で高くなります)

 そしてシリコングリスの熱伝導率,塗り方や厚さ等によっても CPU クーラー 取り付け時の温度が左右されます.塗り方は『できるだけ薄く&均一に塗る』と しかアドバイスできませんが,材質の方はできるだけ熱伝導率の良い物を使用 すると良いでしょう.一般のシリコングリスの熱伝導率は 0.8〜3[W/m・K],アルミ コンパウンド入りで 6[W/m・K]くらい.銀コンパウンド入りで 7〜9[W/m・K]です. ちなみに空気の熱伝導率は 0.024[W/m・K]です.そのため,塗り方にムラがあり, 塗布した面に気泡が出来ている場合には著しく冷却能力が落ちます.

■CPU クーラーを使う
■Cooler Master DORACO-XP
比較的大きな部類に入る CPU クーラーですが,K7DDR は CPU ソケット 周りに広い空間が確保されているため,余裕を持って収まります
ファン上部がFDDに干渉することもなく,吸気のための充分な空間 が開いています
ケーブルの取り回しも特に困らないでしょう.ケーブルが蜘蛛の巣 状態の場合,ファンがケーブルを巻き込まないように,ファンガードを 付けると良いかもしれません.

 上記の写真を見ると分かるように,非常に余裕を持って取り付ける ことが可能です.これは物理的に『取り付け可能である』というメリット の他に,CPU ファンの吸気および排気に対し,静圧が低くなることも意味し, その分 CPUクーラーの持つポテンシャルを充分に引き出すことが可能になる と言えます.

 それでは,どの程度のパフォーマンスを示すかを実験で検証しました. CPUは Vcore 1.5V の AthlonXP 1800+ を使用し,FSB 133MHz の定格で動作 させました.そして室温は26.5度の状態で行いました.

※上記写真では PCI スロットは下の1つだけ埋まっていますが,実験は 2スロット共に埋まっている状態で行っています.

DORACO-XP の冷却性能実験
(ケースファンの回転数は MAX:2884rpm)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃] MBM の示す CPU 温度
(Thermal Diodeの値)[℃]
無負荷状態 45 48 70
高負荷時
(午後のコーダ 10分)
48 49 77

 DORACO-XP は CPU 温度を関知してファンの回転数をコントロールする という事は前述しましたが,無負荷状態のときから既にフル回転のようで, 騒音がかなり激しくなりました.寒い時期はまだそれなりに静かであった 覚えがあるのですが….

 冷却性能としては,C.O.P.の働く90度と比較すると充分に余裕があり, 気温が現在よりも13度上昇しても高負荷に耐えそうです.さすがに夏 真っ盛りになっても室温が40度になることはないと思われるので,夏を 乗り越えることを考えるだけであれば問題はありません.

(そういえば学生時代に住んでいた4.5畳一間のバス無トイレ共同の寮では, 夏は40度に限りなく近付く日もあり,冬は氷点下でした…PC にとってと 言うよりも,人間にとっても過酷な環境でした…)

 ちなみに実験後にケースを開けますと,ケース内は暖かく感じます. 生体温度計 :-) で計測すると 40度くらいといった感じでしょうか. AthlonXP1800+ は 約 50[W] ですので,シリコングリスやエアフロー なども含めた熱抵抗値を計算すると, (77-40)/50=0.74 [℃/W]となります.

■SPEEZE FalconRockII
上下左右ギリギリで収まっています.まるで計ったかのように…
アングルが悪いので分かりにくいかもしれませんが,FDDのステーに ギリギリで干渉せずに収まっています.ただし,ケーブルの取り回しは要注意です

 上記の写真を見ると分かるように,上下左右そして高さ全てに渡って ギリギリで収まっています.また,ヒートシンクの排気は向かって上下 方向になりますので,メモリに対しては若干スペースがありますが, 1スロット目の PCI カードとの隙間は殆どなく,実質的に片側が塞がれた 状態です.

 それでは,どの程度のパフォーマンスを示すかを実験で検証しました. 実験条件は DORACO-XP のときと同じです.

FalconRockII の冷却性能実験
(ケースファンの回転数は MAX)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃] MBM の示す CPU 温度
(Thermal Diodeの値)[℃]
無負荷状態 45 48 68
高負荷時
(午後のコーダ 10分)
49 50 75

 結果として,両条件で DORACO-XP よりも 2度程 CPU 温度が下がって おり,高負荷時には M/B 温度が 1度上昇するという結果になりました.

 以上の結果から,DORACO-XPよりも冷却パフォーマンスが向上している ことが確認できました.また,ケースファンの回転数をBIOS制御した状態 で利用した際に,ファンの発する騒音が激減しており,CPU ファンレス+ ケースファンの回転数を若干アップした TU とほぼ同レベルまで落とすこと が可能になりました.これで,これまで悩んでいた『K7DDRを安心できる 状態で使うとうるさい』ということもなくなり,快適に利用できるように なりました.

 ちなみに DORAC-XP のときと同様,シリコングリスやエアフロー なども含めた熱抵抗値を計算すると, (75-40)/50=0.70 [℃/W]となります.

■AthlonXPのオーバークロック + SPEEZE FalconRockII
 次に BIOS で FSB を定格の 133[MHz]から 166[MHz]にして動作させてみました. 内部クロックは 166[MHz]*11.5=1909[MHz] となり,パフォーマンスで言うと, AthlonXP 2300+ 〜 2400+ 相当になると思います.

 Webページには書いていませんでしたが,DORACO-XP で動かしていた際には 『パフォーマンスが欲しい!』と,いったときにこのモードにして動かしており, DORACO-XP を使用しているときには,CPU 温度は定格と比べて 5度程上昇するに 止まっていました.なお,動作的には安定動作しており,長時間動かしていた ときに1度だけ LAN が挙動不審になりましたが,この状態で使い続けても良い かも…と,思えるほどでした.

FalconRockII の冷却性能実験:AthlonXP 1800+ オーバークロック時(FSB 166[MHz])
(ケースファンの回転数は MAX)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃] MBM の示す CPU 温度
(Thermal Diodeの値)[℃]
無負荷状態 47 52 72
高負荷時
(午後のコーダ 2分)
52 52 81

 無負荷状態で CPU 温度が4度ほど上昇しています.また,午後のコーダの 耐久ベンチを2分で止めたのには訳がありまして,午後のコーダがエラー で落ちてしまいました.メモリ周りのエラーっぽい落ち方です.

 メモリ,CPU 共に定格で動作させていないので文句は言えませんが, DORACO-XP を使用し,今よりも気温が低い時期に動かしていたとは言え, 無問題で動いていた設定です.MBM を起動せずにケースファンをBIOS制御 で動作させたところ,今度は熱暴走のような状態になり,午後のコーダが 落ちるだけではなく,マシンもリブートしてしまいました.

■SPEEZE FalconRockIIの吸出し構成
 ケースを開けてみますと案の定,CPUクーラーの吐き出す熱風がもろに 当たるメモリモジュールが手で触れないほど熱くなっています.これが熱 暴走の原因ではないかと見当を付け,以下の試行を行いました.

  • ファンを吸出しに
  • メモリの前にダクトを付ける

 まず『ファンの吸出し』構成ですが,これはCPUクーラーのファンを逆 方向に取り付けることにより,ヒートシンク側から吸い出した空気をファン から上部に吐き出すという構成です.過去に何台もの PC でこれを行い, 実際に大きな効果を上げたことがあります.基本的には,ファンの上部に 充分な空間がある場合や,ファンの上部付近に外部にエアーを排気するた めのファン(例えばATX電源の吸気ファン)が存在している場合に絶大な効果があります.

ファンガードを取り除き
ファンの表裏を入れ替え
再びファンガードを取り付ける

 これで作業は終了です.コア欠けを防ぐ意味でも,上記作業はCPUクーラーを 取り外して 作業を行った方が良いでしょう.次に効果の検証です.なお,室温は前回実験時 よりも若干上昇しており,27.1度でした.FSB 166[MHz]にしたOC状態の実験も 併せて行いました.

FalconRockII の冷却性能実験:ファンは吸出し.FSB 133[MHz]の定格動作
(ケースファンの回転数は MAX)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃] MBM の示す CPU 温度
(Thermal Diodeの値)[℃]
無負荷状態 46 49 72
高負荷時
(午後のコーダ 10分)
50 51 80

FalconRockII の冷却性能実験:ファンは吸出し.FSB166[MHz]にOC
(ケースファンの回転数は MAX)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃] MBM の示す CPU 温度
(Thermal Diodeの値)[℃]
無負荷状態 51 55 78
高負荷時
(午後のコーダ 2分)
53 54 87

 結論としては,全く効果が無いどころか逆効果でした.特に OC 状態 では高負荷時に危険域に突入したため,実験を中断しました.

 やはりファンの上部に充分なスペースが確保できていないこと,そして ヒートシンクの PCI スロット側が実質的に塞がってしまっていることから, この構成は使い物にならないことが分かりました.上部の PCI スロットを 空け,排気をしやすくしてやれば,若干効果があるかもしれません.

■SPEEZE FalconRockII+メモリモジュール前にダクト取り付け
 次に,メモリの前にダクト(と,言うよりも遮蔽板)を取り付け,CPU クーラーの排気をケースファンに導くようにします.ファンは当然ながら 排気に戻しています.

ダクトは段ボールで作成.実際にはシャーシを閉め,噛み合わせ を見ながら形状を加工します.段ボールが高温になることが予想され ますが,紙の発火温度は250度なので,大丈夫だと判断.

 次に効果の検証です.FSB 133[MHz]の定格状態は既にデータがあるので, FSB 166[MHz]にした状態のみ実験しました.結果は,『計測する以前の問題』 です.Windows 2000 起動中にクラッシュしました.ダクトが CPU クーラーの 排気を妨げ,充分に排気出来ない→CPU 温度の上昇→CPUの暴走 と,いった 流れになっている可能性があります.

 なお,FSB 133[MHz]の状態であれば,とりあえず利用可能な状態です. しかし,CPU 温度はダクト無しの状態と比較してかなり高めであり,逆効果 と言えます…

■SPEEZE FalconRockII+上部PCIスロットを空ける
 FSB 133[MHz]の定格で動作するとは言え,やはり CPU およびメモリ自身は FSB 166[MHz]でも動作することが分かっていますので,可能であれば FalcinRockII を利用しつつ,このオーバークロックモードでも利用したい所です.

 そこで,オンボード VGA もそこそこの性能を持つため,上部の PCI カード スロットに挿入されていたグラフィックカードの利用をあきらめ,撤去してみる ことにしました.このことにより,CPU クーラーの排気はかなり行いやすくなって いる筈です.なお,実験時に室温はさらに上昇しており,27.5度でした.メモリ モジュール前のダクトは当然ながら撤去した状態で実験を行いました.

FalconRockII の冷却性能実験:上部PCIスロットは空け,ファンは吸気.FSB133[MHz]
(ケースファンの回転数は MAX)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃] MBM の示す CPU 温度
(Thermal Diodeの値)[℃]
無負荷状態 45 50 70
高負荷時
(午後のコーダ 10分)
48 50 77

FalconRockII の冷却性能実験:上部PCIスロットは空け,ファンは吸気.FSB166[MHz]にOC
(ケースファンの回転数は MAX)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃] MBM の示す CPU 温度
(Thermal Diodeの値)[℃]
無負荷状態 48 52 74
高負荷時
(午後のコーダ 10分)
52 52 82

 結果としては,定格では問題なく利用できるレベルになりましたが,オーバー クロック時は『とりあえず使える』というレベルであり,常用には不安が残ります. また,前回実験時とは室温が異なりますので純粋に比較は出来ませんが,定格運用 時はほぼ同等の冷却パフォーマンスであり,OC状態のときには若干のアドバンテージ があると言えそうです.

 なお,MBM を起動するとケースファンが最大回転数で回転をはじめる ため,MBM を起動せずにケースファン回転数を Q-FAN コントロール下で の実験も行ってみました.

FalconRockII の冷却性能実験:上部PCIスロットは空け,ファンは吸気.FSB166[MHz]
(ケースファンの回転数は Q-FAN コントロール.Asus Probe で計測)
計測状態 Asus Probe の示す CPU 温度[℃] M/B(電源)温度[℃]
無負荷状態 48 54
高負荷時
(午後のコーダ 10分)
55 60

 ちなみに,午後のコーダ終了直前に MBM を起動して CPU 温度 をチェックすると,85度でした.

■まとめ
 今回,店頭で購入可能なものを利用するというスタンスで 2種類の CPU クーラーを試しましたが,静音性という意味では FalconRockII に大きなアドバンテージがあることが分かりました. また,オーバークロックをする場合には不安が残りますが,発熱量が 50[W] 程度の CPU であれば,FalconRockII であっても夏場の室温上昇 にも充分対応できそうなことが分かりました.

 しかし,FSB 166[MHz] へ OC すると,FalconRockII はやや不安を 抱えます.特に K7DDR はスペース的に CPU ソケットの周りに余裕が 亡いため,PCI スロットが埋まっている場合には安定稼働が難しいように 思います.このような場合には,若干小型の DORACO-XP のような CPU クーラーの方が安定性が期待できますが,ファンが高回転になるため, その分静音性は損なわれます.

 今回のトライにより,AthlonXP 1800+ の定格で問題なく動き,また, 静音性も両立する環境が出来たと言えます.ある意味,動画のエンコード を行わなければパフォーマンスにそれほど不満を感じていませんので, 普通に使う分には良しとするレベルかもしれません.しかし,一度体験 してしまった,FSB 166[MHz]の快適さには後ろ髪を引かれる思いです…

 ある意味,静音性を若干スポイルすることになりますので,その後の 試行錯誤に関しては,別ページにまとめました.オーバークロックを試行 する場合や,より高発熱の AthlonXP を利用する場合には,そちらのページ を参照してください.


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